割れ硝子


ずたぼろだった。
ふらふらと歩けば通行人が避ける。薄汚れた特高が足を引き摺っていれば当然の反応だろうと、歪んだ視界の中で色を見つめた。
せめて気絶できれば多少楽だったかもしれないが、捕まったのは荒川城砦で、入り組んだ路地の更に奥。かなりの距離を歩いて逃げてきたんだ、と混ざり始めた色を見てやっと人心地ついた。
あんな所まで助けなど来ない。自力でどうにか逃げ切るしかない状況で、噛みちぎった感触と絶叫がずっと追いかけてくる。
雑踏は遠い。

かぎ慣れた煙草と馴染んだ温度が鼻先を掠め、思わずそちらを振り向いた。
ざりざりと口の中で嚥下できなかったものが主張して、割れた硝子の先に立っている。相手は頬の傷を見咎めると露骨に嫌な顔をした。
喧嘩か。口が動く。
赤も混じっているのと、内ポケットに突っ込んできた紙幣があるのと、満身創痍のまま駅を通り過ぎた自分。
ぐしゃぐしゃになった数枚を押し付けてから安いところでと靴先を見つめた。


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bkm
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