いただきます


麻酔くらい打ってやるべきだったか。
痛い、とうわ言のように繰り返すのは兄である。簡単に止血をしてやり、顔色を見ると真っ青だった。脂汗が滲む額に張り付いた前髪をゆっくりすいてやる、と、薄い硝子の向こうが濡れていた。丸いレンズをどかすと、ぱたぱた水滴がしたたる。
そういえばこの人は痛みに弱いのではなかったか。はて、この兄は何をしているのだろう。
眼球の許可は貰っていないから、えぐらないようにべろりと舐めた。片腕でとりあえず腹は満たされる。
兄の顔は気に入っているのだ。これはあとの楽しみに取っておく。

特高にマークされてしばらく、城砦へすら来ずに家へとひきこもっていたのが昨日まで。
やっと捜査対象が移ったらしいと無理矢理盲目の兄から伝え聞き、在庫の確認をと家からでたのは朝だった。兄はこの時に暇だからとついて来たのである。
数日のうちに駄目になったモノは多く、何か食べようと開けた冷蔵庫の中身は盗まれていた。調達しようにも、日中派手に動くとまた目をつけられる。
誰から食べようかと算段していたら、の提案だった。


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bkm
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