小説 | ナノ
life -DC -A
「遅いっての!」

手にかかる肉を断つ感触は久しぶりのものだった。
この感触はスピラで味わったものだ。
コスモスの戦士として戦っていたときは専ら相手はイミテーションで、あれは手応えは柔らかいものではなく、固い感触だった。
だから、こうして森なんかで魔物と対峙するとキーリカの森とかを思い出す。
気候は大分違うから、森の感じも全然違うけどな。
でもこうして戦っているうちに戦闘の勘は戻ってきてるようで、どうにかクラウドの危惧した足手まといにはなってはいないみたいだった。

クラウドの世界を救ったときの仲間というヴィンセントは黙々と魔物を蹴散らしていってる。
俺はその流れる射撃を見ながら、はあと息をはいた。

ティファは大丈夫だろうか。
マリンとデンゼルが看病すると言っていたし、三人の夕食は作って出てきたけど……。
本当なら俺がマリンとデンゼルと留守番してティファがここに来る筈だった。
けど今日になって、ティファは流行りの風邪にかかってしまったのだ。
最近は店が忙しかったらしく、帰りも遅かったし、ティファは真面目な性質だから店を休んだりはあまりしない。
そんなのを続けていて、疲れが出たのだろう。
38度ほどの熱をだし、今日この場には来れなくなった。
ティファは俺に行く必要はないと言ったけど、そしたら魔物退治はどうするんだ。
クラウドの仲間の一人が行く予定だとは知っていたけど、一人でいかせるのか。
俺はそう言って、ティファを迎えにきたリーブにって人に言ってティファの代わりに行かせてのらうことにした。
単純に魔物が多くて困ってる人がいるなら、力になりたいと思ったし、それにクラウドの仲間っていうのも気になった。
俺が知ってるクラウドの仲間はティファとユフィだけだ。
あ、いや。ティファを迎えにきたリーブも仲間なんだっけ。
とにかく、まだ会ったことないやつだし、会ってみたいなとそう思ったんだ。

だからこうしてやって来たのだけど……。

「ヴィンセントって凄い強いんスね!!こう……なんか無駄な動きがないっていうかさ!」
「……そうか」

俺の言葉に、ヴィンセントは少しだけ困ったような顔をした。
なんていうか、どう返事すればいいかを考えてる感じ。

なんだろ、これってデジャビュを感じるッス。

「俺、無駄な動きが多いらしくてさ。その辺直したいけどなかなか上手くいかないんスよねー」

この辺の魔物はあらかた片付けたので、次のポイントへ移動する。
俺はフラタニティをくるくると回しながら、前にスコールやオニオンに言われたことを思い出していた。

身体能力はずば抜けていいのに、無駄な動きが多いから隙がある。
そう評価されても、どう直したらいいのかよくわからなくて。
ただがむしゃらに戦っているうちにあの闘争は終わってしまった。
というか、俺はスピラでも異世界でも、ゆっくりと剣技を磨く暇なんてなかった。
状況は目まぐるしく動き、待ってはくれない事態ばかりで、俺はただひたすら駆け抜けた。
まさしく、そんな感じだった。
スピラにいたのだって、ほんの僅かの間だけ。
そんな僅かの間で完璧な剣技なんて身に付けられるわけない。
俺にできたのは、仲間の足を引っ張らない程度の実力をつけることと、親父を倒して……俺の故郷を壊すまで消えないことだけだった。

「もっと強くなりたいッス」

あははと笑いながら、考えていたことの中から、『強くなりたい』という部分だけ口にだした。
そしたら、ヴィンセントは俺をみてぽつりと言った。

「……正直、君が本当に戦えるか、不安だった」
「あ……やっぱり?まあ、しょーがないッスよね。素人なのは確かだし」

俺は確かに戦いの素人だから。
スピラではおっさんとかワッカとかキマリとかは俺より年上だし、あんまり自分との比較対照としなかった。
けど、異世界でスコールとかフリオニールとかジタンとか、あとオニオン。
俺と同い歳くらいだったり、歳下だったりするのに……全然違った。
皆、本当に戦いっていうものを知っていて、俺とは覚悟とか背負うものとか、全然違った感じだった。
あの世界では、俺は一般人もいいところで、いつだってクラウドやセシルやフリオニールに助けてもらってた。

「素人なのか?」
「そうッスよ」


俺がそう答えれば、ヴィンセントは少し驚いた顔をしたので首をかしげた。

「素人だとは思わなかった。ティーダは十二分強いと思うぞ。私にはできない戦いかたをする」
「……あ、えっと……ありがとうッス!」

誉められたのだと気付けば、なんとなく気恥ずかしくなって鼻の頭を掻いた。
俺はあまり誉められたような覚えってないんだよな。
アーロンを筆頭に、ワッカもルールーも厳しかったし。
クラウドやセシルはいつも俺を心配するようにしてたし、俺自身が自分を足手まといに感じていたし。

「ヴィンセントって優しいッスね。あ、ちょっとクラウドに似てるかも知れないッス」

そう言えば、ヴィンセントはやっぱり困った顔をした。
その表情は、出会って間もない頃のクラウドと似ていて……ああ、さっきのデジャビュはこれかと納得した。

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bkm
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