小説 | ナノ
life -DC -B
ティーダはよく喋るな。
ユフィと似ている。

戦い始めはそう思ったが、着々と魔物を倒してポイントを変更するために移動を繰り返すたびにユフィとの違いに気づいた。
ユフィと似ていると思ったが、似ていないところがある。
ティーダはユフィと違い、好意を全面にだすのだ。

そして相手に好感を持てばそれを素直に口にする。
………それが、なんとなくだがむず痒くて身の置き場に困る。

仲間内はこんなことを素直に口に出す者はいなかった。
皆が皆、それぞれの思惑を抱えており、全てを明け透けにすることはなかった。
お互いには必ずテリトリーがあり、私達はその境界線を触れ合わせて少し混じり合わせたほどだ。
仲間の全てを知る必要はないと思う。
それぞれ、そっと秘めておきたいこともあるのだ。
それを皆分かっていて、秘密をそれぞれ持っていて、その秘密ゆえに、自分達はどこか捻じ曲がってしまっている。
秘密を守るため、己を守るため。
相手を疑い、距離をつくり、近づいてもいいかを見極める。

この星の人間はそうやって生きている。
新羅によって多くのものを奪われた人間や、先の厄災で多くのものを失った人間。
そんな者達が溢れるこの世界は、自らの心をあけ広げるほどには優しい世界ではない。

「ヴィンセントはオムレツは半熟と、しっかり焼くのどっちが好きッスか?
マリンとティファは半熟派で、クラウドとデンゼルはしっかり派なんすよ!ちなみに俺は半熟派ッス!!」
「……気にしたことないな」
「えええ!?まじっスか!?」
「どちらも美味いだろう」
「おおおおお!な、なんかヴィンセントが言うと大人な発言に聞こえるッス……!」

卵が半熟かどうかの話をしただけなのに、ティーダは興奮したように格好良いと繰り返す。
なんだろうか。
まるでティーダは幼い子供のように見える。

この世界ではとうてい持ち続けられないような、素直さを持って成長してきたようだ。
腹の底から生み出されているような満面の笑顔が、なんとはなしに直視できない。

ティーダのように笑ったことが、自分にはあっただろうが。

「なあなあ、クラウドってヴィンセントから見るとどんな奴ッスか?」
「……クラウドか?」
「そうッス!ティファに聞いたら、困った顔されてさ」
「……答えにくいな。頼りになる、仲間ではあるが……」
「その答え、ティファとまるっきり同じッスね」

からからと笑うティーダはそれきりクラウドのことは聞かなかった。
けれど、自分から見たクラウドという人間について話し出している。

クラウドはもってる剣が大きいけど、大切な剣だから重くないらしいとか。
そんな風に思えるのが格好いいとか、ちょっと心配性な気がするとか、でも凄い優しいし、頼りになるから格好いいとか。

………とにかくクラウドへは『格好いい』という評価が大きいらしい。
嬉しそうにクラウドをべた褒めするティーダに、クラウドを過大評価してないかと思ったけど、
続けてでてきた『でも朝寝坊するし、料理下手だし、抜けてるところもたくさんあるッスよね』という言葉にそうでもないことを知った。

まあ、言われてみればティーダがするクラウドへの評価は間違ってはいない。
ただ、それを素直に言うことも評することも難しいのだ。

人を素直に褒めるのは、存外難しい。
近しい人間ならばなおのことだ。他人ならば愛想程度に褒めることは容易だが……深く関わりを持つ人間を褒めるのはどうにも気恥ずかしいところがある。

「……ティーダはクラウドとどうやって知り合ったんだ?」

クラウドをちゃんとみて、ちゃんと評価しているその様子に、浅からぬ縁があったのだろうと思ったが……。
そんな関係性を自分達が知らぬ間に構築していたのが不思議で、ふと聞いてみたくなった。

けれど、ティーダは『うーん……前に、ちょっとの間だけだけど、一緒に戦ったことがあるッス』とそれだけ言って、口を閉ざした。
ティーダは自分の目の前を歩いていて、その足取りは先ほどと変わらず、軽やかなものだった。

いったいそれはいつだ?

そう聞き返そうと思った瞬間、頭上から魔物が間に飛び込んできた。
思った以上の巨躯を持つ魔物で、この辺に繁殖している魔物の頭であろうことは見た瞬間に予想がついた。

「気をつけろ」
「了解ッス!」

思った以上に、手ごわそうだ。
ティーダは回避した体を反転させると、水泡が湧き出る不思議な剣を構え、自分も、マグナムの銃口を魔物へと向けた。
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bkm
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