五人で行動する時は、若干テントが狭い。
一人は夜番になるから、テントの中は4人で詰まることになる。
テントは寝るぶんにはそこそこの広さがあるけれど、それでも男四人が雑魚寝するには少々キツイ。
まだジタンが小さい分、いいのだろうけれど……。
「ん………?」
スコールは自分の右手に絡みつく何か柔らかいものに気づいて、眠気まなこをひらいた。
テントの隙間から入り込んでくる日差しに、もう朝が来たのだとわかる。
起き抜けのぼやける視界で、目の前にいて自分の腕を抱きこんで眠っているティーダを見つけ、スコールは小さく溜息をつく。
自分を抱き枕か何かと思っているのか。
そんな風に思い、スコールはぐりっと首を動かして反対側を伺った。
自分の横に仰向けでジタンが眠っていて、その向こうに背中を向けてバッツが横になっている。
そろそろ起きるべきかと思い、捻っていた首を元に戻した。
首を動かしたことで体が僅かに動き、ティーダに抱き込まれている腕が柔らかいものにぐにりとあたる。
「………?」
スコールはまだうまく働かない頭で、自分の腕になにが当たっているのかと思った。
抱き込まれているのだが、腕はティーダの胸と腹にあたっているはずだが……毛布か何かだろうか。
そんな風に思いながら、スコールは目の前で眠っているティーダを見た。
それはもう、まじまじと。
「………あっ……ぃ………」
スコールは目の前のものに視界が真っ白になった気がした。
ぐにぐにと当たる柔らかい感触が、スコールの理性というかまともな思考というか……そういうものを失わせていく。
スコールははくはくと浅く呼吸をすると、後ろ手でジタンの体を叩いた。
ばしばしと叩く力には遠慮がなく、ジタンは突然の衝撃に驚いて体をこわばらせた。
「な……え?なんだよスコール」
ジタンは絶えず叩いてくるスコールの異常な行動に目を細め、体を起した。
スコールはぴしりと体を硬直させ、目を見開いて浅い呼吸を繰り返してる。
その、常とは違う様子にジタンは何事かと覗き込んだ。
そして、スコールがどうしてこんなパニックに陥っているのかを理解した。
理解したが、ジタンも目の前の現象が上手く処理できない。
落ち着け。落ち着け、ジタン・トライバル。
「ジタン……ジタン……な、なんとかしろ……」
情けないスコールの声に、だいぶ混乱しているのだろうということが伺える。
本当にスコールは突発事項に弱いよなぁと、そんな情けなく、やや面白いスコールの状態にジタンは幾分か冷静さを取り戻した。
「……ば、バッツ……も起すか……?」
「いや、落ち着けスコール。どう考えても、バッツを起すのは得策じゃないだろ」
「そ、そうか……。じゃあ、俺はどうすればいいんだ……?」
「とりあえず……スコール。腕をティーダから取り戻せ」
スコールは神妙に頷くとゆっくりと抱き込まれている腕を引き抜きに掛かった。
けれどスコールは僅かに腕を動かしたところで唸って止まった。
「……柔らかい……」
「頑張れスコール!めげるな!」
泣きそうになっている突発事項に滅法弱い17歳を、ジタンは必死に励ました。
正直、『嬉しい状況だろうに』なんて思う余裕はない。
そもそも、目の前のティーダにどうしてそういう感想がもてるというのか。
今は現在の通常はありえてはいけない事態にジタンも普段の色気という色気は失っていた。
「くっ……うぅ……」
「スコールもうちょっとだ!」
ジタンが小声でそう言った途端、肩にずしりと重さが掛かった。
何事かと思って振り返ろうとした瞬間、ジタンの耳元で起きぬけとは思えないほどのでかい声が、テントの中に響き渡る。
「おお!すげえ!おっぱいだーーーーーー!!」
響き渡った声に反応して、スコールが慌てたようにティーダを引き剥がした。
もう、眠っている相手への配慮もない行動だが、そもそもティーダを起さないわけにもいかない。
「うわっ……!な、なんスか!?」
いづれはこうなっていただろうが……スコールに乱暴に放り出されたティーダはころころと転がってテントの端に行ってしまった。
いつもよりもぶかぶかなのだろう。
ズボンの中におさまっている上着の裾がはみ出し、あられもなく前が大きく開かれる。
「っ〜〜〜〜!!」
「ああ……」
「おおおおー!」
その様子を男達三人が三者三様に見つめる。
スコールは息をつめ、ジタンは哀れむように声を漏らし、バッツは一番男として正しい言葉を言ったけれど、正直いえばその言葉がでてくるのはおかしいだろう。
「ん……?どうしたんスかぁー……?」
ごしごしと眼を擦りながらティーダは男達三人を見た。
男達はまじまじとティーダを見つめ……というか、顔ではなくそれよりもやや下のあたりを見ている。
「……どーしたんス……か……?」
ティーダは三人の視線の先を自らも辿った。
するりと視線を自分の胸元へと落とし、目に映ったものにその大きな目をぱちりと瞬きさせた。
そしてそろりと手を伸ばすと、眼前に映るものに触った。
ふにり。ふにふに。ふにー。
「………」
ティーダのその行動に、スコールだけは見てはいけないもののような気がして視線を反らした。
ジタンは呆然として揉みこんでいるティーダを本当に憐れなもののように見つめた。
ティーダの身に起こったことが、自分に起きたらと思うと可哀想で仕方がない。
笑えない。本当に笑えない。
「え……?え?うぇえええええええええええ!?な、なんすかこれぇえええええええ!!」
ティーダは自分の体の変化にようやく気がついたのか、大絶叫を上げた。
耳を押さえたくなるくらいのものだが、ティーダの心情は分かる。
ティーダは半泣きになりながら立ち上がると、がしりと自分のだぼっだぼになったズボンに手を掛けた。
「お、俺の息子は!?」
「なっ!」
「ちょ!待てティーダ!!」
ティーダが取ろうとしている行動を察知したスコールは慌ててティーダをの手を押さえた。
その衝撃でティーダはバランスを崩して、スコールを巻き込んで尻餅をついた。
「うわっ!」
「なっ……!」
倒れこんだスコールは頬に当たった感触に真っ青になる。
通常の男なら、どこに当たってもこんな感触はないだろう。
頭の中が真っ白になり、次どう動けばいいのか分からない。
スコールはがんがんと頭の中に大きな音が響いているかのように、もう一切の思考がまわらない。
「……おい!今の叫び声はなん……だ……?」
途切れた言葉にジタンは振り向いた。
そこには滅多のことでは表情を変えない、男……クラウドが僅かに驚いた顔をしてそこにいた。
「お。クラウド。見てくれよ。ティーダがさー」
バッツのその言葉に意識を向けずに、クラウドは反射的にスコールの首根っこを掴みティーダから引き剥がした。
「うぐっ」
スコールから息が詰まるような呻き声が漏れたが、その表情は情けないくらいにほっとしていて……見事に女慣れしていないのが分かる。
「……ティーダ……一体どうしたんだ?」
クラウドの言葉にティーダは困ったように眉根を下げ、そしていつもよりも柔らかそうな唇で、いつもよりも高い声で呟いた。
「……わかんないけど、なんか……起きたら女の子になってたっス……」
← / →