小説 | ナノ
成分は夢と希望とあと、ちょっとの妄想。@
※後天的な10の女体化話ですのでご注意ください。


「足りない……圧倒的に足りない……」

ジタンの絶望に近い声音にスコールは眉をしかめ、バッツは何か面白いことであろうかと喜色を含ませた表情でジタンを覗きこんだ。

「何が足りないだよ?」

バッツの言葉に俯いていたジタンはがばりと顔をあげると、目をこれでもかと大きく見開かせた。そして次にはぐにゃりと顔を歪めると頭を抱えて、滑らかな髪をぐしゃぐしゃと掻き乱す。

「なにって!決まってんだろ!レディだよレディ!レディが足りない!!」


ある程度予想できていた回答に、スコールはふぅと息をついた。
バッツはからからと笑いながら、乱れたジタンの髪を撫でてやっている。

「なんだーそんなことかぁ」
「そんなことじゃない!!俺にとったら死活問題だ!!」
「ティナがいるじゃん」
「いても同じパーティになれないならいないと同じじゃねーかよ!むしろ逆に残酷だっつーの!!最初から皆無ならまだしも、いるのにわざと外されてるんだぜ!?」


わぁわぁと喚くジタンに、スコールは呆れたように息を吐き出し、ガンブレードの手入れを再開した。

ジタンがこんな風に騒ぐのに理由は……ある。
突発的なことではない。
今までの少しずつ、重なってきた結果だろう。

なにがというと、パーティ編成だ。
大体の普段の編成はバッツ、スコール、ジタンの三人組だ。
ティナはいない。

そして普段の編成と別に、全体でパーティを二分して行動することがままある。
その時の編成は決まって、バッツ、スコール、ジタンにクラウドとティーダを足した形だ。
こちらもティナはいない。

というか、故意に避けられているのだろう。
恐らくジタンはオニオンナイトからティナに近づけては危険だと判断されたのだ。
そんな不貞を働く男ではないと皆、分かっているが……ティナは年齢の割にねんねだ。

ジタンの軽口はティナには良くないと判断されたのだろう。

「ああ〜……またこの5人組かよ〜…」

ジタンは地面にごろりと転がると、『ううっ』と顔を両手で覆い隠して呻いた。
そう。ジタンのいう通り、これからは暫く五人での行動だ。

五人での行動の際は、長い行軍となるゆえにティナがいる側のパーティと合流するのが大分先になるのだ。

それ故にジタンはこうして落ち込んでいるんだろう。
女がいない程度とスコールは思うが、ジタンの萎れかたを見るとジタンにとっては切実だということがわかる。
所謂、モチベーションの問題だ。

「しょーがないなぁ。ジタン、分かったよ」
「バッツ……?なんだよ……」

不貞腐れているジタンの頭を撫でて、バッツはそう言った。
ジタンは顔を覆ってた手を取ると、身体を起こす。

バッツは起き上がったジタンに優しく微笑んでやると、両手を広げた。

「ジタン。俺を女だと思ってくれていいぜ?ち○こついてるし、乳もないけど」

「バッツ……!お前……!」

慈愛に満ちた表情のバッツに、ジタンは驚いた顔をして、照れ臭そうに鼻を掻いた。

そして凄い勢いで右ストレートをバッツの右頬に叩き込んだ。
ガンブレードの手入れをしているスコールの眼前をバッツが飛んでいく。

今のジタンにあの物言いは逆効果だろう。
ジタンは地面に落ちたバッツを振り替えることなく、再びごろりと地面に寝転がった。

「いって〜〜!」
「……なにしてるんスか?」


転がっているバッツを上から覗き込んでくる影にバッツはぱっと目をあけた。

湖ででも泳いでいたのだろう。
まだ髪が乾ききっていないティーダが大きな目をぱちくりとさせて覗き込んでいる。

バッツはティーダが瞬きをしたのを見て、自分もぱちりと瞬きをした。
そしてぱっと笑うと足を振り上げて勢いよく起き上がった。

「ジタン!名案が浮かんだぞ!」
「はー?今度はなんだよ……」

ジタンは苦々しい顔をして、ごろりと転がりバッツの方を向いた。
スコールはちらりとバッツを見て、バッツの隣できょとりとしているティーダを見る。
ティーダは何が起こっているのか分かっていない様子で、ジタンを見て、バッツを見て、スコールを見て……ことりと首を傾げた。

そうすれば、乾ききっていない髪からぽたりと水が落ちる。
スコールは、風をひくからきちんと髪を拭けと言うべきかと口を開きかけたが、バッツががしりとティーダの肩を掴んだことでその言葉を飲み込んだ。

「ああ!すっげー名案!ティーダ!お前、今日から女の子になれよ!」


ぽっかーん。

そんな擬音がこの空間に落ちたと思う。
それくらいに突拍子もなく、またありえない『名案』を言い出したバッツに、ジタンもスコールも溜息をついた。
今度はもう、ジタンも怒鳴る元気も殴る元気もないらしく再びごろりと地面に転がる。

「……なんの話ッスか?」
「ん?ティーダに女の子になって欲しいって話」
「違うだろ!!」

 バッツの斜め上すぎる発言が結局我慢できなかったのか、ジタンはがばりと起き上がると自分の太ももをバシバシと叩いた。

確かにティーダが女の子になって欲しいという話ではない。
この世界に女子の比率が……というか、ジタンの(いやらしい意味ではなく)女不足の話だった。

「なんかこの世界ってほら、女の子が少ないだろ?」
「そーッスね」
「ティナとも一緒のパーティになれないし。それでなんかジタンが拗ねちゃっててさー」
「ほうほう」
「だからティーダ。ジタンのために女の子になってくれよ」
「なるほどって……ええぇ!?なんでそうなるんスか!?」

バッツの説明をふんふんと頷きながら聞いていたティーダだが、バッツの提案する解決方向に驚いて目を剥いた。
軽々しく、『女の子になってよ☆』なんて言ってくれているが無理な話だ。
男が女になれないのは生まれて決まっていることだし……そりゃ、科学的に外見を整えることは可能かもしれないだろうけれど、この何にもない自然身溢れる世界では無理な話だ。
そして同時に、ティーダに女の子になりたいと言う願望はない。

「ちょっとの間でもいいからさぁ」
「いやいや!そんな性別をどうやって変えろっていうんスか!?」
「気合。気合でなんとかなるだろ!夢は信じれば叶うんだ!」

嬉しそうな顔でそう声を上げるバッツに、ティーダは『うぇぇぇぇ』と眉根を下げた。
相変わらず無茶苦茶なことを言い出す。

冗談なのか、本気なのか。
それがいまいち判別つかないのがバッツ・クラウザーの困ったところだ。

「お前の得意な無限の可能性を信じろ!!」
「わ、わけわかんないッス!」
「大丈夫だって!やればできる!ジタンの為に頑張れ!」
「はぁあああああ!?」

重々しい溜息が空間に満ちる。
ジタンのしっぽは元気なく、ぱたんぱたんとゆったりと揺れている。

スコールはガンブレードの手入れを終わらせると、ぎゃあぎゃあと喚きたてているバッツとティーダを見て、明日の探索の為にアイテムの確認でもしようと立ち上がった。

「スコール」
「……」

掛けられた声と同時に、放り投げられたポーションを顔にあたる寸前で受け止めた。
失敗していたら顔に当たって地面に落ちていたかもしれないではないか。

「おい。投げるな」
「なくなったと言っていただろう。補充しておけ」

人の話を全く聞かない鉄面皮のような男……クラウドはスコールから視線を外すとそのままティーダを見た。
少し離れた場所でバッツに『やればできる!ファイトファイト!』などと言われて困り顔をしているティーダを見て、クラウドはその鉄面皮を僅かに変化させた。

スコールはそんなクラウドを見て、ティーダを見て、なんとなしに面白くなく感じてポーションを手の中で弄ぶ。

クラウドは訝しげにティーダとバッツを見ているが、その表情をすっと平素のものに変えるとティーダとバッツへ……いや、ティーダへと近づいた。

「おい。バッツ。今日の夜番は俺とお前でいいな」
「ん?ああ。いいぞー……って、そうだクラウドがいるじゃんジタン!」
「なんの話だ?」
「なーなークラウドー。ジタンの為に女の子になってやってくれよー」

スコールは大きく溜息をついて額を押さえた。
もはやバッツは女になるのは誰でもいいらしい。

クラウドは突然の言葉に、無表情というか蔑むような目でバッツを見ている。
まあ、無理もないことではあるだろう。

「女装ならしないぞ」
「違う違う女装じゃなくてさー」

のほほんとそう言うバッツに、スコールは付き合ってられないなと、さほど話しにも入っていなかったがテントへと引きこもった。
アイテムの、アイテムの確認をしなければ。
食事は済んでいるのだからそれが終わったら眠ってしまえばいい。

スコールは楽しげな様子でクラウドに説明をしているバッツの声をBGMにアイテム整理を始めた。
思うことはただ一つだ。

気合で性別が変わるわけないだろう。

bkm
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