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あれから、ますますあたしはカキョウインさんが嫌いになっていた。だって。
いつだって、カキョウインさんはジョウタロウを見ているのだ。


「…命の、」
「うん、まぁね」

カキョウインさんはゆっくりと微笑んだ。あたしの目にはそれがとても儚く映って、少し戸惑う。

「…なら、カキョウインさんはあたしと同じね」
「え…、」
「ジョウタロウに助けてもらった者同士」


カキョウインさんは、笑った。
今にも泣き出しそうな顔だと、あたしは思った。





数日後、あたしは病院のベッドで目を覚ました。
体を起こすと清潔なシーツが肩から落ちる。ぼんやり室内を見渡しながら、あたしはたった今夢にみたカキョウインさんの笑顔を思い出していた。
あれはたしか、香港行きのチケット代、にしては高額なそれを握らされて彼らと別れた前夜のことだったか。

「…痛、」
「うん、だいぶ良いね。今日から、病院内なら歩き回っても大丈夫だよ」
「…どうも…」
「かわいそうに、ひどい事故だったね。夜はひとりで怖くない?」
「…」

だいじょうぶです、と答えながら、あたしは今度はジョウタロウを思い出していた。

(…あいたい、な)

事故に遭ったのは、自業自得だった。諦めの悪いあたしは、旅の目的地がエジプトだという唯一の情報に賭け、香港行きではなくエジプト行きのチケットを購入したのだ。エジプトへ行きさえすればまた会える、また何食わぬ顔で合流してやろう、なんて考えで。
そうしてヒッチハイクを繰り返していたある日、飲酒運転の車に乗り込んでしまったのだ。だけど運転手が酒を飲んでいると気づいてからも、あたしは車を降りなかった。だから、自業自得がふたつ。

センセイの話だとあたしは何日か眠っていたようだけど(酔っ払いの運転手がどうなったかは知らない)、でもそんなに日は経っていない。

(みんな、今どうしてるかな…)

出された病院食をなんとなく口に運びながら、これを食べ終わったら、コーヒーを飲んでみよう、と思った。






ある日、急患が運び込まれた。ストレッチャーの上で顔中を血だらけにしているその人を見て、あたしは驚愕に声も出なかった。
だけど次にはストレッチャーが来た方向を振り向いて、あたしは思わず反射的に身を隠した。

(ああ…!)

そこには、間違いなく、逢いたかったそのひとがいたのだ。
ジョウタロウが。それに、ジョースターさんに、ポルナレフ。アヴドゥルさんもいた。
インドで再会したときはなぜか居なかった彼も、負傷したのかストレッチャーが用意されていた。ジョースターさんと何か話をしているから、きっと重体ではないのだろうけれど。
でも、さっきのは。カキョウインさんの、あの出血は。
あたしはもう一度ジョウタロウを見た。
そうして、息をのんだ。いつかみたいに。

ジョウタロウは、廊下の先をずっと見ていた。カキョウインさんを乗せたストレッチャーが消えた曲がり角を、ずっと、見つめていた。







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