夜が明けた。
徹夜をしていた訳ではない、ただ不意に目が覚めて窓の外をのぞいてみると時計の時間とは反して空は暗く重たかった。
でも、それでも昨日の夕方から降り続く雨は止まねぇ。あぁ、今日も一日中雨か、と着なれたバーテン服に袖を通した。
がちゃりと、家のドアを閉める。最近どうも調子がでねぇ。
ただ無性にいらいらして、キレて、色んなもん投げて、トムさんが苦笑して。明らかに何かが足りない。

普通に仕事をしてる、そんな俺の日常。それは俺がずっと願い続けた平和な日常。
だが、その日常は俺にとっての非日常で。明らかに何かが足りない。望み通りの世界に、俺は腹を立てる。
空になったタバコの箱を右手で握りつぶした。




「........」

「よし、....静雄、次行くぞ。」

「っス」



いつも通り池袋で仕事をする。いつも通り俺を見た通行人が数歩下がって怯えた表情をする。
いつも通りトムさんが俺の前を歩く。


ただ、違うのは。


(.....また、しねぇ....。)


この世で反吐が出るほど嫌いで、相容れない野郎の匂いが
ここ数週間感じられないことだけだ。
あの嗅ぎなれた匂いが、どこを探してもみつからねぇ。


以前なら少しでも臨也が池袋に立ちよれば、すぐさま俺はそれを感じ取れた。
門田に前にどうしてわかるのか、と聞かれたことがあるが逆にこっちが聞きてぇ。
俺だってできることならごめんだ。だが、現実にほとんどの割合で俺は臨也を見つけてた。


それが、だ。仕事、だとしてもあまりにも日にちが空きすぎている。
以前なら一日とも空けず臨也は俺の前で憎たらしい笑みを浮かべてナイフを構えてた。


臨也が池袋に現れない日常を望んでいたはずなのに。
今は臨也が現れることを望んでいる。


一体俺はどうしたいんだ、と1人心の中で呟いた。







そんな時、だった。





俺の目の前を見慣れた黒のコートが横切った。
その瞬間まで俺はその存在に気づくことはできなかった。



「臨、也.....!!すいません、トムさん。先行っててください。」

「え、おい!どこ行くんだ静雄!!」



臨也は俺に気づいていないのか俺の前方をふらふら歩く。
その後ろ姿がいつになく消えそうで、思わず一瞬足をとめた。

あぁ、おかしいと。何かがおかしいと、そう思った。



俺の知ってる折原臨也はこんな頼りない後ろ姿をしていただろうか。
こんな風に、体全体から不安を滲ませていただろうか。


こんな、こんなに.....



こんなに小さかっただろうか、と。誰に言うでもなくただ俺は心の中で呟いて、叫んだ。



「臨也!!」


走り出したが生憎時間帯のせいで人が多く思うように動けない。どうしてか誰も、今日に限って道を開けない。
臨也、とまた大声を上げた。ただ目の前の黒い物体は何の反応を示すでもなく、突如立ち止まって。



「...クソ...」



ふわり、と体が揺らいだかと思うと次の瞬間には全力疾走で走り出した。
俺もやけになってその姿を追おうとするがどんどん、どんどんその姿は小さくなっていく。

でもそれでも、俺は追いかけた。
体が叫ぶかのように、脳に命令する。まるで、今臨也を見失えばもう二度と見つけるとことはできないと警告するかのように。


だが現実は甘くない。
やっとの思いで人ごみから抜け出した時にはどこを探してもその影すら、なかった。



呆然と立ち尽くす俺に、一時止んでいた雨が再び降り注いだ。




そして俺は数日後、門田からある一つのうわさを聞かされる。
「新宿の情報屋が消えた。」と。

そして俺はあの時どうして臨也を捕まえることができなかったのかと再び頭を垂れる。



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ちょっと短めですが静雄さん視点。
おそらくあと2話か3話で終わります。これ、誰得な話なんだろう...??



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