:: ▼暗転

▼暗転切甘
無印の彼が登場する前くらい



愛している。

その言葉がどんなに待ち遠しかったことだろうか。自分の好きな人に言われることが、どんなに嬉しいことだろう。

だけども、私は嬉しくも何もなかった。夕焼けの見えるこの場で、頬に添えられた手は暖かくなんかなくて、口付けられた額は温度を保っている。

私は何も応えられなくて、ただ彼の愛を受け取る。そして一通り受け取ったあと唇を合わせ、彼は私の名を零した。


任務に出る、と言って背を向けた彼がもう帰って来ないことを察してしまったから、彼がこれからしようとすることを知っているから―彼の全てを知ってしまったから。
私は何も応えず、ただ変形音を聞きながら黄昏の中にそびえるブラックアウトを見据えた。

私は応えない。応えられなくて、端から見れば呆然と立ち尽くしているかのように、焦点の合わない目で彼を見ていた。


別れ。
これを恋人同士の遠距離恋愛の始まりだと思いたい私と、完璧な別れと理解している私が居た。

やがて音と風を立てて、取り残した私なんて見向きもせずに彼は去ってゆく。
ドラマか映画何かではこんな風なシーンでは雨が降っていることが多いが、残念ながら空は皮肉にも綺麗な夕焼けで、欝すらと星も見えている。


「ブラックアウト。」


彼に聞こえているだろうか。
よくまとまらないまま沸き上がってくる私の思いを、彼は聞いている?
見放されたとは思っていないよ、仕方なかったとも思っていないよ。ただね、もう少し時間があれば私と一緒に居られる時間があれば良かったのにと思う後悔しかないよ。
もっと貴方と居たかった、そしてこんな風に"愛してる"だなんて言われたくなかったし、私だって言いたくなかった。

だけどももう変わらないものは変わらない、だから小さくなっていたヘリコプターの影に。
私は一言を涙と共に零す。


―私も愛してる…愛していたよ。






――――
暗転さんは最期にきっと思いを伝える人


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2012.09.28 (Fri)


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