第貮話:第伍頁
不思議な確信を抱きながら進む。この先にはきっと“何か”がある。具体的には判らないが、その“何か”に誘われている気がする。
そうして誘われるがまま、伸び放題の草を掻き分け後ろを振り返らずに行く。突き進んで行くと木々に囲まれた中に佇む古びた洋館を見つけた。その何メートルか手前には、蔦で覆い尽くされている煉瓦の壁が続いており、途中に錆びた鉄の門があった。
思わず、歩みと呼吸を止める。“何か”の答えを此処に感じ取った。透かさず、表情を硬くする。
「誰だ」
振り返らず、唐突に天禰が何かに問うた。一陣の風が吹いた後、天禰に問われた何かの立てる音が煩く響く。それが聞こえても尚、天禰は立ち止ったままだった。一瞥することなく、目の前の洋館にただ視線を向けていた。
怯えているのではない。神が何かに怯えるなど有り得ない。ただ、確信している。自分が何も手を下さずとも、照前が率先してそれに向かっていると。確実に、それについて望ましい報告が来るのだと。
やがて音が止み静寂になると、ようやっと天禰は振り向いた。
「終わったか」
「ええ」
従者とその足元で力なく倒れている人間達の間を交互に視線を動かす。照前は肢体達を冷ややかな目で見下ろし、嘆息して問いに答えた。
「では、行くか」
向き直り、恐ろしげに聳え立つ洋館に臆することなく向かう。風の向きが途端に変わった事も、今は力として。照前も此処で事の顛末を悟ったように歩を進めた。向かう敵はきっとこの屋敷の中だ。
開けっ放しの門が、こちらへ来いと呼んでいるように見えた。その余裕の語りかけに眉を寄せながら、天禰は草を掻き分ける事もせず進む。敷地内に入るとあっさりと裏口らしきものが見つかり、薄い笑みを零す。
――向こうはどんな構えでこちらを“歓迎”してくれるのか。果たして、人間が神である自身にどれだけ対抗出来るのか、一度試してみたかった。彼女が大変な目にあっているだろう時に非情ではあるが、少女が心配であるのは事実だ。
塵埃だらけの小さな裏口を潜り抜けると、建物の中は闇が広がっていた。灯りは申し訳程度しかない。
「随分と偏った趣味のようだな、この主は」
天禰が見知らぬ屋敷の主の感性に疑問の声を投げる。怪しげな蝋燭、そして動物の骨のようなものが散乱している上、古びたレンガには蜘蛛の巣が幾つもかかり、そして放置されていた。管理する気がないのだろうか。映るもの全てが落ち着かない。
「人間の趣向など我々には理解しかねますよ」
独り言のつもりだったのだが、従者である照前が律儀に感想を述べる。内容は冷酷であるが。
そうして狭苦しくうねる道を進むと、更に暗闇の広がる場所に行きついた。行き止まりかと足を止めるが、この先に何やら嫌な気配がする。
「地下へと続く階段か。行くぞ、照前」
「御意」
二人の影が黒に飲み込まれると、辺りは静けさだけが取り残された。