もう今年も残すところ僅かで編集部も仕事納めに向けて慌ただしくしていた。
世間はクリスマスイブということでイルミネーションで街は光輝いている。それに群がる人々はカップルばかりだ。
俺にとってはそのライトすら、寝不足な瞳には辛いだけだったけど‥ひとつだけ大きな問題がある。
「小野寺、終わったか?」
「あと少しです‥」
「りっちゃーん!もう俺ダメかも…!」
「あと少しですから頑張りましょ…」
自分に喝を入れて仕事に集中し、なんとかこの地獄的な忙しさから解放された。
疲労感を少しでも和らげようと寒い屋上で大きく息を吐き、両腕を広げながら身体を伸ばしていると後ろから声をかけられてドキッとする。
その背後の声の主は俺を急かすように俺の上着を投げてきた。
そう、これが問題な人。
強制的に俺のクリスマスに予定を入れ、俺の意思を無視して男同士で過ごすなんていう一般的には可笑しな話になってしまった。
「俺はまだ仕事が残ってますから、ご一緒できないんです」
「何言ってんだお前、さっさと行くぞ!」
この人に俺の嘘はお見通しだと分かっているのに敢えての抵抗でそんな嘘をついてしまう俺。
ダメな奴だと自分でも思うけど、高野さんの強引なところにちょっと救われていたりする。
口では嫌々と言う俺だけど、本当はクリスマスを高野さんと過ごせるのが嬉しかったりする。これが本心だというのに素直になれないのは、俺はこの人を好きになっても許されるのか分からないから。
高野さんが「俺のこと好きだろ?」と告白しやすい雰囲気にしてくれたとしても俺は答えられないと思う。立場上のこともあるし、何より男同士だし…
ただの言い訳だと笑う人もいると思うけど、俺は臆病なんだ。
横澤さんと一緒にいる高野さんを見るともやもやする。これが嫉妬だって自覚してる。高野さんのことを思ってる以上に好きだということも。
「何ぼーっとしてんだよ」
「いや、イルミネーションに見惚れてて…」
違う。本当はそのイルミネーションの光でほんのり見える高野さんを見てただなんて言えるわけもなくて、顔を俯けた。妙に火照る頬が、耳が、冷たい空気に触れてじりじりと痛い。
そんな俺に高野さんが近付いてきて、俺の頬に優しく触れた。
そのまま高野さんの綺麗な指が顎を持ち上げると同時に顔がどんどん近付いていき、鼻先が触れたところでゆっくり目を閉じた。
すると、唇に柔らかな感触がしてリップ音を立てて離れた。そして、続けざまに唇を奪われる。
「‥ん、ぁ…高野さ、ん」
自分でも信じられないぐらいの甘い声で名前を呼びながら高野さんを求めると優しい笑みをみせて、さらに深く口付けた。
‥‥好き、
小さな声で紡いだ俺の言葉は高野さんに届いただろうか。もし、サンタがいるのならこの言葉をこの人に届けてくれるだろうか。
でも、この言葉は自分で伝えるから意味のあるものなんだから‥俺に伝える勇気を下さい、とかお願いしてみてみよう。
「あ、雪‥」
はらはら、と降る雪に高野さんは口付けをやめて空を見上げた。
「た!高野さん!」
雪のようにすぐに消えてしまう言葉だけど、今伝えます。
「好き‥なのかもしれません、」
Fin..
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