まだ11月も始まったばかりだというのに、街の人々は気が早すぎる。

子供ならサンタが来る!という一大イベントだからはしゃぐのは分かる。
だが、大人がクリスマスを楽しみにするのはどうかと思うのは捻くれた俺だけだろうか。

恋人がいれば、少しは考えが変わるのかもしれないが、俺にはそんなものいない。絶対にいない!

それ以前に年末ということもあって、きっと仕事でバタバタしていてクリスマスどころじゃないだろう。そう思うと、クリスマスがとても憂鬱になってくる。


「はぁ…」


大きなため息を一つ。それだけなのになぜ俺は怒鳴られなければならないのだ。


「小野寺!ため息吐いてる暇があったら、作家から原稿奪ってこい!!」
「俺の担当の先生はちゃんと締切守ってますよ!」
「お前の担当だけ守ってても意味ねぇんだよ!全部揃ってから威張れ!」


たしかにこの人の言うことにも一理あるんだが、俺に言われても羽鳥さんが今頑張って奪いに行ってるわけで、俺に出来ることはその原稿が早く来てくれる願うことぐらいだった。


(やっぱり荒れるなぁ)


しばらくして、目の下に隈を作った羽鳥さんが原稿を持ってきて、やっと俺たちの仕事も一段落した。ギリギリ終電に間に合いそうだ。

周りの編集たちももう帰ったようで、このフロアに残っているのは俺と編集長である高野さんだった。
そのことに気付いた俺は慌てて帰り支度をして、この場から去ろうとする。帰り道が一緒の為、ここで一緒のタイミングで帰るとなると、家に着くまで一緒になってしまう。
それだけはなんとか避けたかった。だって、俺は男である高野さんに迫られているから!!


「お、お先に失礼します!」
「おい小野寺!」
「なんでしょうか…俺、早く帰りたいんですけど」
「お前、クリスマスはなんか予定あるわけ?」
「とくに何も…でも!一人で楽しく過ごす予定なので!」
「そうか。じゃあ、予定空けとけ」


え?この人は俺の話を聴いていたのだろうか。いや、むしろ聴く気がないんじゃないか?

俺の話を無視して勝手に予定を決められてしまった俺は高野さんに反論するものの、無意味に終わってしまった。


「じゃあ、帰るか」
「いや、俺はこのあと寄りたいところがあるので」
「この時間じゃ、もうどこも開いてないだろ」
「散歩しながら帰ろうかなーって思ってて、」


なんとか一緒に帰るのだけは避けようとして吐いた嘘だけど、高野さんはそんなのお構いなしで俺の腕を引いて歩き出す。


「ちょっ!」
「お前の嘘はバレバレなんだよ!そんなに散歩したいなら俺も付き合ってやるよ」


この後、どんなことを言っても繋がれた手を離してもらえなくて、高野さんと手を繋いで寒空の中、歩いて帰ることになってしまった。

さすがに11月の夜中は空気が冷たくて身体が冷えてしまうかと思ったけど、繋がれた手を必要以上に意識してしまって、逆に全身が熱かった。

学生時代、俺が先輩の後を追って歩くという光景が蘇ってきて、今更ながらあの頃は本当に先輩が好きだったんだなぁと改めて実感した。
その好きだった先輩の隣を今でも歩いていると思うと、さらに身体が火照った。

素直に高野さんを好きだと認めてしまえば、きっと昔の自分は羨ましがるだろう。
だけど、そんな素直さはどこかに行ってしまっている今の俺。
だけど、繋がれた手の温もりは自分でもよく分からないけど、嬉しく思えてちょっとだけ繋いだ手に力を入れたのはここだけの話。



next..

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