皆が寝静まった真夜中だというのに、俺は悪夢にうなされて目が覚めた。
すると、俺のうめき声に気づいた弟の雪男が声をかけてきた。
「兄さん、大丈夫?」
「悪い‥起こしちまったか?」
「いや、それはいいんだけど、かなりうなされてたみたいだけど‥」
心配させないように嘘を言おうと思っていたけど、うめき声を聴かれてしまっているから正直に言うしかなくて。
「親父が出てくる夢を見たんだ」
「そっか、」
雪男は何かを察したのか、それ以上何も聞いてこなかった。
俺は大きく息を吐くと、雪男の寝ているベッドへ断りもなく潜り込む。
「兄さん!?」
「‥‥」
無言で布団の中に丸くなる俺を見て、はじめは戸惑っていた雪男だったけど優しく抱きしめてくれた。
昔は泣きじゃくる雪男を抱きしめるのは俺の役目だったのに、今では俺が雪男に抱きしめてもらってなんか変な感じだけど、雪男の腕の中はすごく落ち着いた。
「‥お前は勝手にいなくなんなよ、」
消え入りそうな声で紡いだ言葉に自分でも反吐が出る。
だって、勝手にいなくなったわけじゃない。俺が巻き込んだんだ、親父を。
だから、また巻き込まないように雪男から離れるべきだと分かってるのに、このぬくもりを身近に感じられなくなるのが嫌で、すがるように雪男の腕にしがみ付いた。
「兄さん‥‥心配しなくてもいなくならないよ」
「そうだよな、今まで一緒だったんだ。これからも一緒だよな」
「うん、僕は兄さんの為ならどんなことだってするから」
雪男の俺を抱きしめる力が強くなった。それに言葉の裏に何かを隠しているけど、それ以上を考えるのをやめた。
今はただ、このぬくもりを感じていたいから。
雪男の胸の鼓動と体温に身を委ねて、俺はゆっくり意識を手放した。
Fin..
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