新 リアルワールド | ナノ





【できるできないという話じゃないんだ。やってもらいたいんだよ。なぜなら、できるのが君しかいないからだ。】

返された言葉に心臓がギュッと掴まれた気がした。

【僕が頼めるのは君だけだ。もう何ヶ月も探してやっと繋がったんだ。この手掛かりを離して次を探すなんて、無謀な賭けでしかない。次を繋げるには何ヶ月かかる?何年かかる?そうこうしている間にも君の世界に何匹ものポケモンが迷い込むだろう。ポケモン達を助けることができる鍵を持っているのは、君だけなんだ。】

どうか協力をお願いできるかい?
物腰は柔らかいながらも、彼の目は鋭く真剣だった。断られたら困ると語っている。
そんなの、拒否権なんてあってないようなものじゃないか。
ウィローは適切な協力者を選んだのではなく、たまたま偶然私を引き当ててしまっただけ。そして当たりくじを引いてしまった私が断れば、次の当たりはほぼないに等しいと。
私でなければならない理由も、私だからお願いしたいという肯定もなかった。
だけど、ウィローからすれば、猫の手も借りたい状態で、猫みたいに大したことができなくても構わないのであれば。それでも私にできるのことがあるのなら。

「……私、頭は良くないし、自慢できる特技もないです。ちゃんとできるか分かりません。でも、私でいいのなら、やり、ます。」

ポケモンなんて、ひとつ間違えば大災害だ。火を吐き地を割り雷を落とす。もしそんな存在が現れたとして、人がそれに対抗する術はあるのだろうか。
グレン島でグリーンが言っていたことを思い出す。彼らポケモンの力は自然の脅威そのもの、もしくはそれ以上。全員が友好的ではないとしても人間を襲おうとは思っていないから、彼らが歩み寄ってくれるからこそ人はあの世界で生きていける。ポケモン達が人と敵対してしまえば、人間なんて一溜まりもない。すぐに全滅してしまう。それほどまでの力を、彼らは持っているのだ。
そんな存在がこの世界に現れる。そうなれば、ここで暮らす人々に危険が及ぶ可能性があるのと同様に、私という存在も危うくなるのだと感じた。これが、他の何処かの、例えば遠く離れた外国の話であるならば、私は危機が訪れるかもしれないと知っても恐らく何とも思わなかっただろう。
だけどそれが私を危うくするから。"私の世界"が壊れるかもしれないから。
私には、ウィローとコンタクトがとれたという、たったそれだけの結果的理由しかないけれど、それを止めるチャンスというものを私だけが持っていて、なおかつ好きで憧れていた存在を救うためでもあるならば、どうにかしなければならないんだと思った。

「……私は何をしたらいいんですか?」

この世界にはポケモンがいない。従ってトレーナーもいない。
ポケモンに対抗する術としては、バトルをして戦意喪失させることが定常だけれど、それがないこの世界だと人が出来るのは逃げるか、もしくは最悪命を奪うことを視野に入れた上での捕獲になるか。
――そんなことだめだ。あってはならない。
でも、大人でさえそんな二者択一みたいに困難なものを、子どもの私がどうやって保護したらいいのだろうか……。
私の是の返事を聞いて、ウィローはどこか安堵したように見えた。
そして、やると決めたはいいものの、その方法がまったく思い浮かばない私に案を提示する。

【ありがとう。この件については君の力に頼りきりになるだろう。その代わり、バックアップは惜しまない。君には、モンスターボールというポケモンを捕獲する機械を使って、ボールにポケモンたちを捕まえて欲しいんだ。――ああそうだ、名前を聞いてなかったね。君の名前は?】
「チアキです」
【チアキだね、これからどうかよろしく頼むよ。チアキの協力無くしては、この件はどうにも立ち行かないから。さっき言ったモンスターボールだが】

ウィローの手に、真ん中を境として赤色と白色をした馴染みのボールが握られ、画面に映る。

【これがモンスターボールだ。これをポケモンに当てることでポケモンをゲットできる。が、警戒して反撃してくるのもいるかもしれない。そういう危険を防ぐために、自分のパートナーとしてポケモンを持ち、相手が攻撃してきた時にそれを防ぎ太刀打ちできるようにする。これをまあ、ひとくくりにしてポケモンバトルと言うが、その辺りは?言ってることが分かるかい?】
「はい、一応……。ボールもバトルも分かります。知ってるというか……なんとなく、ですけど」
【ふむ。確認だが、君の世界にポケモンは?】

いない、と首を振る。

【そこまで理解できながら、ポケモンが存在しないのか……。そちらの世界にとってポケモンがどういう存在なのか非常に気になるところだけど、それはさておき。さっき言ったような危険から君の安全を守る措置として、一匹ポケモンを渡そう。】

その言葉に目を見開いた。
ポケモンが、この手に……?私に相棒のポケモンが?

【最近ゲットしたばかりだけど、幼個体ではないからある程度の強さはあるはずだ。人懐こいから指示も通りやすい。そんなに困ることも起きないだろう。】

パートナーとなるポケモン……誰だろう。最初に渡される初心者向けのポケモンと言ったら御三家だ。でも最近ゲットしたってことは御三家以外も可能性がある。ピカチュウかな。いや、ピカチュウは人見知りって言うし、やっぱりヒトカゲとか?もしかしてガーディかも!
話が進むにつれて気分が高揚し、わくわくしてくる。
ウィローは手元の何かをいじり、用意をしている様子だった。ふっと身をかがめたかと思えば、今度は画面から外れるほど身を乗り出し、視線は画面を逸れて横の方を向いて手先は休まず動いている。
と、画面の表示が変わった。
映画を観る時にポケモンをもらうようなモーションが流れ始める。亜空間のような背景の中をモンスターボールが流れて行き。パッと消えた。
同時に、ぽす、とどこからともなく現れ降ってきた赤と白のボールが、私の膝の上に着地した。






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