▽ 05
「あー、迷惑かけてごめん」
「うわ、切り替え早いね」
「まあそれが取り柄だし?」
あのハプニングから五分後、泣き止んだ後の切り替えは結構早い僕。マックスに突っ込まれてしまった。
「じゃあ皆、これからパート割りするよー。まず始めに確認したいんだけど、楽器経験者って…」
「待って水希。その前に、まずはこの子でしょ」
「い…へ?」
途中で遮った柚に、ああと納得する水希。まずはこの子…つまり僕って、どういうことなの。
「名前はまず、染岡くんと仲直りしてくること。それからじゃない?」
「なっ……」
びっくりして固まった。仲、直りする?染岡くん、と……。
えと、えと…。
「…や、やだ。僕…は、まあ悪かったけど、本当のことだもん」
「あんたはまたそういう…」
深くため息をついた水希。風丸までやれやれみたいな顔してるものだから、つい窓の方に顔を逸らした。
「名前、変な意地張ってないで素直になりなさい。口ではそう言ってるけど、どうせすっごく気にしてるんでしょ?」
「気にしてなんか…」
「あ、やっぱり気にしてるだろ?手が喉元にいくのは、名前が嘘ついてる時とかの癖だぜ!」
「!!」
守に言われて気がついた。無意識に手が喉元を掴んでいる。…確かに僕の癖だ。
いつの間にか部屋にいる全員がじぃーっと見つめてきていた。遂に観念せざるをえないみたいだ…うう。
「…だって、吹奏楽なんかとかいろいろ言われて…嫌だったんだもん」
「…その気持ちはわかるけど、もう子供じゃないんだから少し我慢しなさい」
「し、したもん。だけどなんかぷっつーんて、ぷっつーんてキレた…」
「我慢」
「………ごめんなさい」
わかればよし、と頭を撫でてくる水希。それはいいんだけどさ、守と春奈ちゃんとかが便乗してわしゃわしゃしてくるんだよ、わしゃわ…、
「髪解けっ、ぼさぼさになっ…ちゃったんだけど!」
「あ、わりーわりー。昔みたいだなーって思ってさ!」
「名前先輩、髪結んでないと大人っぽいですね!」
「悪いなんてこれっぽっちも思ってないでしょ、ねえ」
すっかりぐしゃぐしゃになってしまったので、髪は下ろしておくことにした。あははと笑う二人を視界に入れないように柚の方を向くと、何かを首からかけられた。
「ん、アルトサックスのストラップ…?今は使わないよ、これから…その、出かけるんだし。染岡くん探しに」
ストラップっていうのは携帯につけたりするのじゃなくて、サックスを首からかけるためのストラップのことだ。いきなりそれをかけられて驚いたけど、まあ邪魔になるわけでもないからいっかと納得する。が、
「何言ってるの、使うに決まってるじゃない!アルトサックスも持って行くのよ」
「な…何故!?嵩張るし傷ついたりでもしたら危ないよ!」
にこやかに否定してくれやがった柚。その間にもアルトを手渡され、習慣でつい装着してしまった。
「ただ話して謝るだけじゃ駄目。ちゃんと伝えてこなきゃ、あなたが一番伝えやすい方法で」
「…え、」
それって、と聞く間もなく廊下にぽい捨てされてしまった。こっちはやっておくからがんばんなさいと手を振る水希。
…と、その後ろから守が飛び出してきた。がしっと掴まれる手首。
「染岡はたぶん河川敷にいると思う、行こうぜ!」
行こうぜって守も行くのか。うん、正直ちょっと気まずかったから心強いんだけどさ、
「のぉぉぉ何これ超次元スピード、明らかでじゃぶほぉっ…す、すとっぷ守!」
さっきも同じようなことしたよね。さっきも超次元スピードでやばいことになったよね!
さっきは楽器がなかったからまだしも、今は首に楽器を提げてるんだ。あんな超次元スピードで河川敷まで走られたら堪ったもんじゃないと慌ててストップをかけたが、止まったのは既に一階の昇降口でした。
「い…いい守、楽器は赤ん坊だと思って扱わなきゃいけないんだよ」
「楽器が赤ちゃん?」
「そう。ボールがないとサッカーできないのと同じで、吹奏楽は楽器がなくちゃ何もできないの」
守にそう教えると、そりゃ大変だ…!と言って動かなくなってしまった。…いや違う、ものすごくゆっくり動いてるのか。
「守…。そこまで慎重にならなくても、さっきみたいなスピードじゃなきゃ大丈夫だって。楽器持ってるのは僕だし」
「あ、それもそうか!」
はははっと笑って、今度は普通の速さで走り出した守。それなら早く行こうぜー!と叫ぶ守においていかれないよう、僕もアルトを優しく抱えて走り出した。
目指す河川敷で、僕が担当するのは仲直りだ!
それぞれのパート割り(よっし、しっかり仲直りしてくるからね!)
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