▽ 06
「…す、ごいね」
「ああ、相当気合い入ってるな!」
どうしよう、仲直りする以前に話し掛けられるかわかんない。
染岡くんと仲直りするべく河川敷へやってきた僕らは、現在物陰に隠れていた。発見した染岡くんはたたひたすらゴールにシュートを決めていて、その気迫がすごすぎて話し掛けにくかったからだ。
そこで守に相談しようと振り返ると、守は元気よく立ち上がっていた。
「ま、守?」
「染岡ー、ちょっといいかー?」
「ええぇんなあっさり叫べるもんなのかよ!」
相談する間もなく、すぐに呼びかけた守。ああそうだ、こいつは思いたったらすぐ行動する子だったっけ。ちっくしょー心の準備なんてできてないよー!?
うわぁぁぁと頭を抱える、もといサックスを抱えている僕の心境など露知らず、振り返りこっちを見る染岡くん。一瞬驚いたような表情を浮かべたけど、みるみる不機嫌な顔に。
「…円堂。悪いが、俺はさっき言った通り…」
「ああ、それはわかってる。今は別の用事があってきたんだ。な、名前!」
「あ、うん。守は僕について来てくれただけで、その、」
「……じゃあなんだよ」
顔を下げてるから染岡くんの表情はわからないけど、見なくても不機嫌だって雰囲気がビシバシ伝わってくる。
ごめんなさいって、そう言えばいいんだ。けど、言えない…どうしようどうしよう…!
どうすればいいかわからなくなって、また泣きそうになった時、柚の言葉を思い出した。
"伝えてこなきゃ、あなたが一番伝えやすい方法で"
…僕の大好きなサックス。一時間くらい前まで使っていたから、リードを少し舐めれば使える状態で持ってきていた。
そっか、僕にはこれがある。
「あ、のさ、染岡くん。ちょっと聞いてもらいたいんだ…サックスの独奏」
「…は?お前、ふざけてんのか?」
「違う違う、本気だって!すぐに終わるから」
「…何する気だ?」
「んー…わかんねーけど、とにかく聞いてやってくれよ!きっと名前のやつ、何か伝えようとしてるんだと思うからさ」
ありがと守、こういう時は察しのいい君に拍手を贈りたい。
まだ不服そうな染岡くんを、今度はちゃんと顔をあげて見た。今は大丈夫、さっき言えなかったことも、今ならちゃんと言葉にできる。さっきから五分も経っちゃないけど。僕は、意を決して口を開いた。
「染岡くん、…いきなりあんなこと言われりゃ嫌に決まってるのに、それを考えないで叩いたりして、自分勝手なこと言って…さっきは本当にごめん」
…言えた。ちゃんと言えた…大丈夫、いける!
「けど、吹奏楽を遊びとか、ただ吹くだけ…って言われるのはやっぱり、嫌。だから聞いてみて欲しい。下手だと思うけど」
そこまで言い切って、また下がっていた顔をあげ、楽器を構えた。
名字名前、いっきまーす!
++++
曲名すら朧げだけど、指は覚えていた短い独奏。スタッカートやクレッシェンド、途切れないメロディー、一つ一つの音を大切に演奏した。リードミスもあったけど、それでも何かが伝わるようにって。
ほ、息を一つ零す。やり切った今、今更ながら恥ずかしくなってきて思い切り俯いた。
僕は、伝えられたのかな。
「…え、っと、…あー…その…」
「あの、あの、あのさ名前、お前、すげーっ、ばーってなってふわって、ららーんって!」
「…ごめん守、よくわかんない」
興奮した様子でばたばた…そう、ばたばたする守。正直何が言いたいのかまったくわからない。
何が言いたいのかと尋ねようとした言葉は、それを発する前に、染岡くんの予想外な言葉に遮られた。
「…良かったと、思うぜ」
「え?」
「俺は詳しくないからよくわかんねぇが、…確かに、ただ吹くだけじゃ無理だってのを、円堂も俺も感じた」
お前が本気でやってるってこともな。
そう言ってくれた染岡くん。ぴょんぴょんと守が跳ねてその言葉に同意している。
とにかくこれはもしかして、
「少しは伝え、られたのかな僕…!」
「へ?おお、やったな名前!」
「う、うん!」
わーっと僕も跳ねたくなった。が、我慢我慢。まだ全部は終わってない、仲直りがちゃんとできたのかわかんないから。
守をおとなしくさせたところで、再び口を開いた染岡くん。
「あー、なんだ…その、俺も八つ当たりみたいになっちまって、言い過ぎたよ。…さっきの聞いててちっと頭が冷えた」
「染岡、お前…」
「ああ…悪かったな。なあ、俺も、その…助っ人行って、呼吸教えてもらってもいいか?」
照れ臭そうにしながらも言ってくれた言葉に、今度こそ僕も跳びはねた。
「もちろんだよ!よろしく、竜吾?」
「…おう、こっちこそよろしく頼むぜ、名前!」
守と一緒に染岡、もとい竜吾に飛びついた。うん、案外いい友達にもなれるかもね!
繋がったタイの音符(よし、戻ろう!…部活動の活動時刻は終わってるから何もできないけど!)
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