響け僕らの | ナノ


▽ 04


「さっきもいったけど、要するに呼吸ができてないんだ。必要な分の空気が取れなくて余計疲れちゃって、最近格段に増えた体力をフル活用できずにタイミングがズレる。…わかった?」

「全然だ!」

「よねー。まあとにかく、効率のいい呼吸法を見つけて肺活量をあげればいいんだよ!」


そう言うと守はわかった!と返事をした。絶対わかってないと思うけどいいや、やる方が早いもん。



「ということでサッカー部の皆さんには、二週間と四日後に控えた本番でのスケットに入ってもら」

「冗談じゃねえ、こんなことやってられるか!」

「最後まで言わせろよ」


夏未さんの宣言により、場所は変わって音楽室。あまりに唐突過ぎて誰もついてこれないため、状況説明をしようとしたらこれだ。気持ちはわかるけどさー、せめてあと八秒くらい聞けよ。


「染岡くん、君の気持ちはまあ、わかるけど。こんなことして何になるんだとか思ってるよねたぶん」

「ったりめえだ!ただ音を出すだけでサッカーはうまくならねえ、お前らもそう思うだろ?」

「………」


…いきなり僕の琴線に触れてくるとか、何この人。同感ではあるから抑えるけどさ。

他のメンバーの反応は曖昧だった。確かに呼吸だけでできるようになるのか?でも、さっき半田とマックスは上手くなってたし…な具合。ただ、その中ではっきりやる気を見せたのが五人、夏未さんに守と風丸、半田とマックス。
マックスと半田はさっきから隣で呼吸の練習してる。あ、八拍吸う、止める、吐くのやつね。
そこで突然守が立ち上がった。さっきから突然とか唐突なことばっか…。


「確かに普段の練習とはまったく違うけど、これをやることで得るものはあると思う!」


それに、と言葉を続ける笑顔の守に昔の面影を見ました。変わらないね、守。


「それに、名前が呼吸ができてないって言うならそうなんだ。な、風丸?」

「昔から音とか呼吸には敏感だったからな…そういえば、俺の走るタイムが縮んだのも名前のおかげだし」


それを聞いて周りがどよめいた。うおーすげーなら本当に上手くなるかもな的な。さすが風丸パワー?
みんな戸惑いつつも納得してくれたらしく、鬼道くんもやってみる価値はあると言い、よしやるぞーと水希と柚も含めてわーいってなりかけていた。納得いかないと叫んだ染岡くん以外。


「染岡…」

「円堂達には悪いが、やっぱり俺はこんなもんで上手くいくなんて思えねえ…!」


こんなもんという言葉につい、ひくり、と口許が引き攣った。だめだめ自分、これはちょい過剰だけど当然の反応だ!と抑える。
けどその抑えも、次の言葉で呆気なく塵と化した。


「俺はサッカーがしたい…楽器を吹いて演奏なんて、サッカーに比べたらお遊びじゃねーか!」


ぷちんって何か切れた。たぶん、僕の琴線が切れた。だから僕は、サッカー部が落ち着けと染岡の周りに集まっている中で、僕は、染岡くんの頬を叩いた。

…は?と呆然とする染岡くんと静まり返る皆。


「染岡くん、別にそこまで無理してやらなくてもいーよ。幸い人手はもう足りてる」

「な…」

「出てって。これは僕のエゴだけど、吹奏楽をお遊びなんていう君に楽器を触ってほしくないよ」


呆然としたままだった染岡くんだけと、みるみる表情が険しくなっていった。


「はっ、言われなくても出てってやるよ!」


吐き捨てるように言葉を放ち、出て行った染岡くん。後には気まずい空気が残された。…あ、うん、原因は僕だ、よね。


「…染岡のやつ、最近の練習が上手くいかなくてイライラしててさ。許してやってくれないか?」

「…守」

「あー、もう、駄目だねこれ」

「は?水希、何が駄目…って」

「…う、…ふぇっ」

「ちょ、名前!」


自分でも驚いたが、堪えていたらしき物が出た。ああうん、僕ってば泣いちゃったんだよどちくしょー。
慌ててあやしてくれる守の温もり、水希と柚の手を感じて、僕は困っている周りに構わずうわぁぁっ泣いてしまった。いやほら、僕チキンだから怖かったんだよ、たぶん。

 
立ちはだかる譜面
 
(今の状況って曲の譜面すらない感じだよね…、むー)
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