響け僕らの | ナノ


▽ 01

「非常に言いにくいんですが、今日欠席のメンバーは様々な事情によりしばらくおやすみです」

「…な、」

「…はいぃ!?」


顧問の言葉を聞いた柚の叫びが音楽室に響き渡るが仕方ないと思う。つまりだ、


「三人で吹奏楽をやれと言ってます?」



雷門中吹奏楽部は部員総勢三十四人。そこそこなレベルの部活だと思う。
校内行事や地域行事で演奏、コンクールやマーチングもやったりする。たまに普通ではなくなるけど、とりあえずは普通の部活だ。

そんな吹奏楽部は今、様々な事情により三人以外部員が出席できないという危機的状況に陥ったことを顧問から知らされました。しかも。


「どうしよっか、本番は二週間と五日…つまり十九日後だよ」

「細かい」

「サッカー部凄ー」


上から順にトランペットの豪炎寺水希、パーカッションの羽柴柚とサックスの僕、名字名前。全員二年。
ちなみに水希はその苗字からわかる通り、サッカー部の豪炎寺修也くんの双子の妹です。転校してくる前から兄妹仲は良くないみたいだけどねー。

とにかく、ある絶対外せない行事を二週間と五日後に控えてるんです。
なのにどうやって三人で吹奏楽しろって話、少人数にも程がある。これだと軽音楽になりそうだ。


「…仕方ないね」


と、口を開いた柚がいきなりの爆弾発言を投下しました。


「運動部から引き抜きしよう」

「わお!」

++++

はい、現在理事長室です。夏未さんに引き抜きを相談するために来たよー。


「というわけで最低十五人、なるべく」

「あ、光ったよサッカー部。いつもだけど」

「そうでございますね」

「…、なるべく運動部を臨時で引き抜きたいんです。同じ初心者でも、運動部の方が肺活量はあるんで」

「そうね…まあ、場合が場合だし…」

「わー守すげー!」

「……名前!」

「話を聞いとこうよ」


怒られた!
バトラーさんと一緒にクッキー食べながら校庭見てたんだ。
とりあえず謝ってからまた校庭…主にサッカー部を見る。
別に暇つぶしに見てるわけじゃないよ?理由はあるんだよ?ほら、気になるんだよねサッカー部。できればもっと綺麗になると思うんだけどなあ。


「何ができれば綺麗になるの?」

「あれ、何でそのこと考えてるってわかったの?」

「全部口に出していたわよ」


口に出してたとかー!まあ言わない理由もないし、何故か夏未さんの顔が真剣だし。


「サッカー部は確かに体力があるよ?けどね、その体力をフルに使えてないと僕は見た。その原因はずばり、呼吸とかができてないからじゃないかな、ってさ」


るるるん!!

…言ったまさにその瞬間、パソコンからメール受信の音。それに目を通した夏未さんは、申し訳なさそうな顔をして言った。


「ごめんなさい、急用で出かけることになったの。準備をお願い、バトラー」

畏まりました、と出て行くバトラーさんに手を振った。またねバトラーさん。


「臨時での引き抜きを許可します。今日から始めて構わないけど、本人の意思を尊重すること」

「本当!?ありがとう夏未さん!」

「気にしないで。私も名前の指摘で思い付いたことがあるし」

「え、あ?」

「私にも引き抜きの心当たりができたから期待しててちょうだい。じゃあ、頑張って」


意識がサッカー部に飛んでいた間にバタンとドアが閉まる。何、僕ってば役に立てたらしいの?ならいいか。というかあれ、引き抜きの許可出ちゃったんですけど!


「なんか上手くいったね?」

「そうと決まれば柚、明日から二人で引き抜きに行くよ!」

「僕はー?」

「留守番してなさい」



(おとなしく留守番です)
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