響け僕らの | ナノ


▽ 夢か現か幻か?

「はーつまんないってか僕何故にこんなとこにいるのさ…」

「つまんないなーってか僕なんでこんなとこに…」

「…ん?」

「…え?」



響け僕らの番外編!
〜もし名字とGOのシュウくんが出会ったら〜



「我が家がリフォーム中で車で家から追い出された名字です。見知らぬ場所で放り出された名字名前ですって何故僕だけなのちくしょう」

「住んでるところが改築中だとかで追いやられたシュウです。本当にいきなり飛ばされたシュウですって更にここどこ状態なんだけどどういうこと」

「……」

「……」

「…よければ僕と」

「…ご一緒する?」


一拍置いた後、お互いに堅く手を握りあった。

++++

家の中の物を片付けたり移動させるとかで家から追い出された僕。しかも何故か知らない街の駅で放り出されたよ夕方頃になったら電車で帰って来なさいと。他の兄弟達は家で手伝ってるのに…確かに片付け苦手だけどさ、ちょこちょこ壊したりなくしたり間違えたりするけどさ!いいじゃん別に隣町までこなくても!
ま、降ろされたのが近所だったら即行で帰ってたとは思うけど。


「それ完全に君が信用されてないだけなんじゃないかなあ」

「だああ納得いかない…!」

「あはは、どんまい」


まるで心の籠もっていない励ましをくれた少年、名前はシュウくん。さっき公園のベンチで座ってて知り合った。前髪に不思議な飾りついてたり、学ランのようなそうでないような服を着ていたりする美少年だ。
彼もまた、なんやかんやで家から追い出されたらしい。しかも僕より酷いこなとに完璧迷子。帰り方わからんってどういうこと、どう来たのかもわからんってどういうことなの。

本人いわくそのうち帰れるよあははーって言ってるけど…ねえ。


「それって大丈夫なの…?」

「大丈夫だよ」

「そ、そうなの?」

「うん。それよりさ、」


にこっと笑ったシュウくんは、僕の手をとって立ち上がった。


「せっかくだから歩こうよ。ずっとこのベンチに座ってるの、つまんないし」

「お、おおー、うん!」

++++

「ねえねえ、あれは何?」

「クレープを食べたことがない…だって…!?」


歩いてわかった。シュウくんが本気で浮き世離れしているってこと。やけに興味津々な様子で町並みを見てはいたけど、これって「うわあー初めて来る町だなぁー」じゃなくて、「うわあーこーゆーの初めて見るなあー」って感じだったのか…!


「くれーぷ?あれ、食べるものなのかい?」

「甘くておいしいんだよー!ちょうどおやつの時間だし、…よーしちょっと待ってて買ってくる」


定期持ってるから交通費は心配ないし、というか車から降ろされた時にお小遣い頂いたからそのへん問題ない。お店の看板を見ると、今期間限定サービスやってるらしい。なんでも男女2人(要するにカップル)のお客さんには、1個分の代金で約2倍サイズのクレー…なんだと。


「シュウくんやっぱこっち来てー」

「ん?」

「お姉さん、チョコバナナの2倍サイズ1つ。トッピングでバニラアイスつけてください」

「はい、少々お待ちくださいね」


しばらくしてできたクレープは確かにでかかった。やばいとても嬉しい。可愛らしいカップルさんにはおまけですよーとアイス2つつけてくれたお姉さんにお礼を言って、スプーンとクレープを受け取った。


「あの人、僕達のことカップルって言ってなかった?」

「まあまあ気にしない気にしない!ということでシュウくん、これがクレープです。一緒に食べよう!」

「わあ、いいの!?ありがとう!」


目をキラキラさせながら、はむっと一口を食べるシュウくん。おいしい?って聞くと、もぐもぐしながら全力で頷いてくれた。
僕もアイスをスプーンですくって口に運んだ。………何このアイストッピングのくせに超おいしいんだが。

++++

ところ変わって、ここは鉄塔広場。うぃずシュウくん。夕方です、夕日が眩しいです。
クレープ食べながら歩いて、また歩いて、道端の猫と触れあって、んでまた歩いて…ってしてたら、驚いたことに隣町から一駅分歩いて帰って来ちゃったよ。


「シュウくん、今日は付き合ってくれてありがとう。すごく楽しかったよ!」

「うん、こちらこそありがとう!僕もこんなこと久々だったし、助かったよ」

「助かったって、シュウくん君本当に…って、あるぇ!?」

「え、な、何?」


ここ、稲妻町。僕は帰ってこれたからいいんだけど、シュウくんはいいのだろうか。そういや帰り道わかんないって言ってたけど!?


「ああ、大丈夫だよ。帰り方はなんとなく想像ついたから」

「そ、うぞう…?」

「うん。ね、それよりさ、」


昼間となんかデジャヴ。夕日を背にしてにこっと笑ったシュウくんは、昼間と同じように僕の手をとった。


「ここの景色、もっと上から見てみない?高いところは大丈夫?」

「高いとこはむしろ好きだけど…鉄塔登るの?僕遅いから、登る間に夕日が沈んじゃうかも」

「大丈夫。それに、僕なら鉄塔よりももっと上に行けるからね」

「へ?」


言うが早いが、シュウくんは微塵も迷わずに僕の手を引き寄せて抱え上げた。何を言う間もなく駆け出したシュウくんは、鉄塔裏の大木に向かうと、その場で飛び上がった。
ぐうんと遠ざかる地面に思わず叫びそうになる。シュウくんは枝を踏んでトントンと調子よく飛び上がっていき、気がついたらてっぺんでした。


「ね、この木の方が鉄塔より高いでしょ?」

「シュウくん、君一体何者…?」


人1人抱えて飛び上がって大木のてっぺんっておい。

でも、確かに高い。鉄塔から見る景色もすごいけど、ここからの景色はもっとすごい。鉄塔のイナズママークまでが夕日に照らされて光っているし、今の夕日が沈む直前の時間、稲妻町が空の境界と溶け合って見えた。


「この空の色、僕、好きだなあ」


穏やかにそう言ったシュウくんの瞳の端から、黒い雫が流れ落ちたように見えた。


「シュウくん、それって…」

「え、なあに?」


振り向いた瞬間、雫がはじけたように宙へ飛ぶが、それっきり見えなくなってしまった。やっぱ気のせい、だった…の、か?



下に降りてから、結局家の近くまで送ってもらってしまった。しかしシュウくん、何回も言うけど本当に大丈夫なんだろうか。


「ここでばいばいだけど…帰り道本当に大丈夫?」

「うん、心配してくれてありがとう。もうそろそろって感じかな」

「?」

「また来れたら、次はこの町を案内してね。――クレープおいしかったよ。楽しい1日を、ありがとう」


瞬間、風が吹いたと思うと、目の前にいたはずのシュウくんの姿がゆらめいて、ひかって、…消えた?


『またね、名前。それはクレープのお礼だよ』


ぼやけたような声と一緒に、頬を撫でられた気がする。ふと気づくと手の中にシュウくんがつけてた水色の玉があった。いつの間に…ってか、え、え、え、消えるって、はい?

パニクる僕の中で思い出されたのは、別れるまでの不思議な言動、妙に浮き世離れした知識と雰囲気、大木の上で見た黒い雫のこと。


「は、はは…これは、帰った、のかな…」


その、いわゆる、あっちっていうか、なんて、いうか。


「…シュウくん君まさか、まさか、ふ、えええええ!?」



夢か現か幻か?



それから3週間後。リフォームの終了した自分の部屋でゴロゴロしつつ、あの時貰った玉を眺めていると、突然窓が開いた。
驚いて起き上がろうとした僕の眼前で、黒い裾が翻る。


「久しぶり!暇そうだね、名前」

「っ!?どっ、どどどうしっ…え、窓!?ここ2階…!」

「まあまあ。それよりさ、」


この町案内してくれると嬉しいな!

いつかと同じように僕の手をとったシュウくんの表情があまりに期待に満ちたものだから、苦笑して頷くしかなかった。
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11/12/31
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