▽ サンタとトナカイ
「お、おま、お前、今、なんて…!?」
「いやだから、今年はクリスマスパーティー無しでいいって言っただけなんだけど」
「な…、だだだ誰か救急車を!早く病院を呼べぇぇぇっ!」
風丸、病院は呼ぶものじゃなくて行くものだから。ていうかここ、帰り学活後とはいえ教室の前だからね、皆何事かと見てるからね。
「もー、騒ぎすぎだよ?らしくないなあ」
「らしくないのはそっちだぞ!?イベントとなると毎回やりたいとあれだけ騒ぐ、むしろ暴れるお前が何もしなくていいなんて…!」
風邪か?熱か?新型インフルかノロウィルスか!?と、ずんずんと詰め寄りながら聞いてくる風丸のほうこそ、病気じゃないかと思うくらい顔面蒼白な様子だ。そりゃ毎回騒ぎまくって何があろうと強行突破する覚えはあるけどさ、驚きすぎだよ。
遂にはつかみ掛からんばかりに近づいてきた風丸を押しやり、僕は事情を説明した。
「僕だって本当はやりたいんだけど…クリスマスの日、ウィンターコンサートがあるんだ」
「こ、コンサート?」
「ん、吹奏楽部のね。ちょうどクリスマスに被っちゃって」
「…なるほど、それでか」
とりあえずは納得した様子の風丸を見て胸を撫で下ろす。だってさっき地味に怖かった、つかみ掛からんってかまじで肩掴まれてて痛かった。
「というわけだから、今年はイブもクリスマスもゆっくり過ごしてねー。じゃ!」
「え、あ、ああ…」
まだ少しびっくりした表情の(ってかぶっちゃけ顔色悪い)風丸を残し、僕は部活に向かった。
++++
「なあ円堂、お前、今年のクリスマスはどうする?」
「ん?そりゃ、毎年名前がパーティーって騒ぐじゃないか。風丸も騒がれるだ、」
「いや、今年は違う」
「へ?」
「部活のコンサートがあるから今年は何もやらなくていい、って、名前が言ったんだ」
「ん?そっかやらない…は?ちょ、まさか、冗談だろ!?」
「いや、マジだ」
「し、信じられない…」
「…で、改めて聞くが…今年のクリスマスはどうする、俺達」
「…俺、ここ何年かはずっと名前が発端のパーティーやってて、当然今年もやるって思ってたからなあ…」
「俺もだ。他の予定もないし、そのパーティーが当たり前過ぎてやることが浮かばない」
「………」
「………」
「………やるか、円堂?」
「ああ、皆も誘うか!」
++++
「うーん、サンタさん今年も来てくれるかな…もし来てくれるなら、プレゼントはものじゃなくて、クリスマスパーティーをやれるようにして欲しいなあ」
「ああもうなに馬鹿なこと言ってんの、サンタはいないしパーティーする時間もないって。それより、チューニングは終わってる?」
「むー…終わったよ」
まったくコンミスさんってば、サンタさんはいるよ?去年は新しいリードケースくれたもん。まあ、本番十分前にぶつぶつ言ってる僕が悪いか。
全体でのチューニングも終わり、いよいよ本番。残念ながら今日はサックスの幽霊部員さんがお休みでサックスが僕一人なんだけど(いつも思うけど一人っておかしいよね、増やそうよ先生)、まあ頑張る。パーティーできない分頑張る。なんかさっき勝手に司会役にされたけどファイトだ名字名前、今日はクリスマスだどうにかなる。
で、顧問の合図でステージに上がって、席について客席の方を見て、止まった。心臓飛び出すくらいびっくりした。
「あ、出て来たぞ風丸!楽器もきらきらしてるし、なんかかっこいいな!」
「頼むから静かにしてろよ…」
「楽しみですね、木野先輩!」
「ふふ、けどあんまりはしゃいだら駄目よ、音無さん」
『えええなんで…間違えた、お客様少しお静かにお願いします』
しまった、つい司会マイクで言ってしまった。いやでも仕方ないよ。だって、だってさあ、サッカー部的な意味で賑やか過ぎる。何故か知らないけど、雷門中サッカー部のメンバーがほとんどいる。守と風丸は最前列にいるし。しかもサンタさんの格好してるし、疑問だらけだ。
だけどサッカー部以外の人もいるわけだから、会は進めきゃいけない。今は疑問を奥に押しやっておいて、とりあえずコンサートを進めよう。
『皆さん、お待たせいたしました!雷門中吹奏楽部のウィンターコンサート、まず始めにお送りするのは…』
++++
「で、なんで皆がきたの…?」
「なんでって、…誘ったから?」
「いや何故?」
なんだかんだで演奏が終わり、現在地は音楽室。司会進行の度に風丸のトナカイ姿が目に入って爆笑しかけたのは秘密だ。
だけどほんとに、何故サッカー部がきたのか?まあ、演奏中は大人しかったし、終わった後の楽器運びや片付けも手伝ってくれたから大幅に時間短縮できたんだけど。
「何故って…今日はクリスマスだからな。な、円堂?」
「そうそう。いつも通り、クリスマスパーティーだぜ!今年はサッカー部の皆も誘ったからさ!」
「…え?でも、今年はやらなくていいって、」
言ったはず。そう言うと、二人は悪戯っぽい表情でこっちを見た。
「いや…なんかこう、毎年やってたからさ、いきなり無くなると変な感じで」
「だからやっぱり、やろうと思ってさ」
「片付けも終わったし、時間あるだろ?」
「準備だってもうしてあるぜ、俺ん家!」
呆気に取られたまま二人を見ていたけど、じわじわとこう、胸があったかくなったというか、すごく嬉しいと、いうか、
今年もできるんだってのが、感動、というか、
「っ…あぁぁぁもう二人とも…!」
「うわっ!」
「や、やれないと覚悟してたのに……ありがとうわぁぁぁぁん!」
「泣っ…!?どんだけやりたかったんだよお前!」
おたおたしてる二人だけど、本物のサンタさん…よりもいいやつらすぎて、もう、泣けてきたちくしょー!!
「ほら、行こうぜ!今、先に帰った母さんと木野達がケーキ作ってくれてるはずたがらさ、俺達も手伝おう!」
「うん!」
…一足早い贈り物をありがとう、サンタさんにトナカイさん!
(にしても、ウィンターコンサートで青春おでんをやるとは思わなかったな、俺)
(僕は二人がその格好で来たのが驚きだよ)
(気にすんなって!)
+++++
Merry Christmas!
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