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「突然だけど、今日は四時から合奏をやってみます。予定してるのは"マジで感謝!"の一曲だけだから、なるべく譜読みは終わらせてきてね」
「今から各パート練習ですけど、合奏開始までに音楽室に戻ってきてチューニングしといて下さいっす」
今日の予定を知らせる柚と成神。二人の口から合奏という言葉が飛び出した瞬間、不安そうな表情を浮かべたメンバーがいることに気づいた。ホルンの少林くんにトロンボーンパートの秋ちゃんと、壁…壁…壁島くんだっけ?
「名前ちゃん…島じゃなくて山だよ。壁山くん」
「ああ、山!ごめん山くん」
「今度は壁が抜けてるっスよ!」
「え…まあ気にしない気にしない」
「そうだな、気にするな壁山!名前はこういう奴なんだ」
「さすが守ー」
「キャプテンまで酷いっスよ…」
ということで、トロンボーンとホルンのメンバーに集合をかけた。体の大きい一年生の名前が思い出せなかったのはご愛嬌だ。
改めてメンバーを見渡して見ると、守以外は不安そうな表情を浮かべた人ばかり。特にトロンボーンの秋ちゃん、えと、壁山くん?、…と、影野くんの三人の表情に至っては、なんだか見てるだけのこっちも不安になってくる。
とりあえず、守たちホルン組には基礎練習の指示を出しておいて、まずはトロンボーンをどうにかしてみることにした。
「で、トロンボーンのみなさんにずばり聞くけど、現時点で何ができないです?」
「…、音が大きくならないの」
「むう?」
「あ、でも!その代わりってわけではないっスけど、」
「楽譜なら……全部、わかるようになったんだ……」
「ぴぎゃああああああ!?」
いきなり背中側から声が聞こえたのと寒気がしたのとで、全力で叫んでしまった。でもあれだよね、よく考えて。この声あれだよ影、
「……驚かせて、ごめん…」
「ふおああああああ影野くんだよねそうだよねええええ!?」
「お、落ち着いて名前ちゃん!?」
++++
「とりあえず、後ろからじゃなきゃ大丈夫だからさ…たぶん」
「わかったよ…」
影野くん自身はいい人だってのはわかるんだけど、頭ではわかってても…体は叫んじゃうんだよね、これが。ごめん影野くん。
で、なんやかんや(主に僕が)騒いで暴れて早三分。ひとまず三人の音を聞かせてもらったところ、確かに楽譜は全部わかっていた。タイミングやら音程やらはまだまだ修正していかなきゃだけど、譜読みは予想以上に大丈夫そうだ。
で、問題の音の大きさは、…本人達の言う通り。今の三人の音は、トロンボーンの音量じゃない。
「うー…なるほどね。確かに小さいかな」
「ごめんね、あまり時間もないのに…」
「え!?いや秋ちゃんが謝ることないよ、無理言ってるのは僕らなんだし!むしろこの短期間で音覚えて楽譜まで読めたことの方がすごいんだよ?」
それに加え、僕…と、練習している守達の前で、秋ちゃん達は一曲吹ききってみせた。
初心者さん達の中には、主に"恥ずかしい"とか"自信がない"って理由で、練習ではできても人前では吹けない人が少なくない。僕らの学年が入部した時にももちろんいた。そうってしまうと、なんだかへなへなとかすれ気味に音になって曲にするどころの話じゃなくなるのだ。
だから、三人はすごくよくやってくれてる。特に壁蔵くん(だっけ?)は、守からはかなりの小心者だって聞いてたけど、吹くときの目は真っ直ぐで良い目をしてた。たぶん秋ちゃんが適度に励ましたりしてくれたんだろうってのも伺えるけど、元々の芯はしっかりしてるんじゃないかな。かなりいい音も所々聞こえたから、やれば確実に成長する。
「でもほんと、この短期間でよくここまで…まだ一週間なのにこれはすごい。びっくりしたよ僕」
「あ、ありがとうございますッス!」
「本番までに、間に合うといいな……」
「大丈夫だよ影野くん、この調子なら君たちは間に合う!で、肝心な音だけど、」
慣れるしかないってのもあるからなあ。ただ、もしも三人が大きな音を出せない理由が、"大きな音がどんなものか、どれだけの息を使うのかわからない"とか、それに類するものであれば。
「応急処置みたいなもんだけど、今から走りに行こう。でもって叫ぼうか!」
「え?」
「まさかさっき騒ぎすぎて頭が危なくなったっスか…?」
「壁紙くんー、あんま失礼なこと言ってっと怒るよー」
フォルテ・f・フォルテ(…にしても、やっぱりトロンボーンはかっこいいね!)
++++
f〔フォルテ〕…強く、大きく
☆fff〔フォルティッシシモ〕…特に強く、大きく
(三人で!)
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