響け僕らの | ナノ


▽ 三連符に遭遇

「……あ、いや、その、」

「………ええっと…?」

「…………連れとはぐれてしまったのだが、」


いきなり扉を開けた男の子。私服ってことはまあ、この学校の人ではないみたいだ。…だが何故ここにきたの。



ぴんぽんぱんぽぉぉーん。


『外部生の南雲晴矢さん、基山ヒロトさん。校内にいらっしゃいましたら、至急、B棟3階、少人数教室までお越しください。繰り返します、外部生の――』


「ごめんね風介、晴矢がいきなり走り出したからびっくりしちゃってさ」

「…、ボールが見えたからつい」

「君は馬鹿か」

「見つかってよかったねー」


放送で呼び出してからきっかり五分後、二人はやってきた。名前は基山ヒロトに南雲晴矢。そして、さっき扉を開けたのが涼野風介。三人とも家の都合で転校先を探しているらしい(知り合い三人で転校ってのもかなり珍しいよね)。

その候補ということでこの雷門中を見学していたら、南雲くんがいきなり走ってどこかへ行ってしまい、基山くんがそれを追いかけていったために涼野くんが取り残された。んで、何故か僕が練習をしてた少人数教室にやってきたと。

ちなみに、ここは3階の少人数教室。普通、呼び出すなら職員室とか放送室だけど、待ってる間寒いから少人数教室にした。放送室にも暖房はあるけど時間かかるし、僕が使ってた少人数教室はもう暖めてあったから。


「…いきなりすまなかった」

「別にいいよー。けど、涼野はなんでこの教室に来たの?特徴ないのに」

「…いや、楽器の音がしたから、つい」

「風介は楽器好きだよね」

「涼野もついって…けどそっか、楽器好きなんだ。良かったら吹奏楽の見学してく?」


見学者とかはいつでも大歓迎だ。三人は少し話し合った後、お願いしますと軽く頭を下げてきた。それじゃあまず部長のとこに行こうか。

++++

吹奏楽部の内部事情を軽く説明しておくと、まず三年生がいない。今の三年の先輩達は誰も入らなかったから。だから二年生が部長をやっている。
必然的に残りの部員は一年と二年だけなんだけど、そんなにぎすぎすする訳でもなく、ほわほわとした雰囲気。部長の性格が部にそのまま反映された感じかな。


「初めまして、部長の羽柴柚、中学二年です。それじゃあまず、名前と見学希望の楽器があれば聞きたいんだけど…」

「俺は南雲晴矢。楽器の希望…は、特にない」

「じゃあ、晴矢は僕と一緒でいい?あ、基山ヒロトです。楽器は…そうだなあ、吹くのはちょっと難しそうだから、打楽器がいいな」

「…涼野風介。サックスの見学をしたいんだが」


おお、ちょうどいい。打楽器…パーカッションは柚がパートリーダーだし、サックスは僕…しかいないし。「名前、涼野くんは任せて大丈夫よね?」「うん、大丈夫ー」よし、このまま教室に別れていいだろう。


「指定したってことは、もしかしてサックス吹いたことある?」

「まあ、趣味程度には。付け加えるならアルトが好きだ」

「なるほ、」


どまで言う前に、だんだんだんだん!とバスドラの音に加え、柚達の声が聞こえた。


「うわぁ、南雲くん凄い!いきなりエイトビートできてるよ!」

「これくらいちょろいな」

「意外な才能だね晴矢!」


うん、うるさくて会話できないから早く行こう。

++++

そんなこんなで涼野にサックスを吹いてもらってみると、趣味のレベルじゃなかった。南雲くんもすごいけど涼野もすごかった。部活見学っていうか、僕が涼野の見学してる状態。


「すごいよ涼野、その音色かっこよくて僕すごく好きだわ…!」

「…どうも。だがお前も上手かったじゃないか、…私はビブラートができないんだ」

「ビブラートなんて僕もまだまだ練習中だよー」


そうか、と呟いた涼野ははっと顔をあげて時計を見た。あ、五時…確か涼野達の学校見学は五時半までって、さっききた校長が言ってたっけ。
涼野と一緒にサックスを片付ける。僕も片付けて帰る準備をしないといけない時間だし。


「このまま涼野が入部してくれればいいのにー…あ、ここだよ」

「今日は世話になった。…ありがとう」

「どういたしましてー。じゃ、また会えたら会おうね涼野」



校長室まで案内した後、そのまま音楽室へ行って部活のミーティングに参加してから帰った。思い返してみるとほんとに珍しい日だったなあと感じる、そんな帰り道。


に遭遇
(それにしても不思議な三人だったなあ)



…で、とある三人の帰り道の会話。


「理事長は有名らしいけどよ、肝心のサッカー部は廃部寸前だったぜ?」

「けど、父さんは警戒してるみたいだし…見張る方がいいね。サッカーはできないけど」

「は?なら俺パス」

「僕もちょっと…やっぱり風介もやだよね」

「……、…いや、私はこの学校でも、いい」

「まじか!」

「おお!さすが風介!」

「……」


(…楽器を、吹きたい…ような気がする)

++++

ハロウィン企画で書いたもの。軽くネタバレ気味かも。こうして吹奏楽部に涼野がやってきry
修正 10/11/15
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