響け僕らの | ナノ


▽ 17

「というわけで名前、彼が指揮者のアテなんだけど…成神くんも名前も、いい?」

「いやもう全然おーけー、是非雷門に来てよ!」

「オレも全然おーけーですよ。なるべく頑張りますから」


戻ってきた柚に、改めて指揮者のアテである成神の紹介をされた。全然おーけー、むしろ指揮者やるだけじゃなくもう転校しておいでよってレベル。



珍しいくらいに成神と意気投合したおかげで、この十五分だけでも成神についてわかったことがたくさんある。

まず、成神はテンポとか取るのがものすごく得意で、かなりの音感もある。本人いわく小さい時から風呂の時以外ずっと、いろんな曲を聞いてたからだそうだ。
次に、楽譜が読める。曲を聞くうちに楽譜にも興味を持ったらしい。読むなら難しい本より難しい楽譜の方が簡単だと断言された。

この時点でかなーり優秀です。だって、試しに今練習している曲の総譜を見せたところ、さらーっと読んでくれたんだもの。しかもメロディー部分の口笛つき!リズムを読むだけじゃなく、音も一緒に読めるなんてすごいよ。
それに加えて軽く指揮の振り方とかもかじってるだなんて、ちょ、こんなすごい人材がサッカー部にいたとは…!

それともう一つ、個人的に僕、めちゃくちゃ気が合う。やばい合う。年齢的には後輩だけどそんなこと関係ない、だって趣味とか性格とか非常に合う。何故だってくらい合う。柚が僕を連れてきた理由がなんとなくわかった。きっと、凄く合うからだ。


「やっぱり気が合ったみたいね、二人とも」

「うん、まさかあんなマイナーな曲とかで語れる相手が見つかると思わなかった!」

「同じく。てか名前さん、あんたマジで二年生?全くそう思えないんだけど」

「ははは、そういう成神はホントに一年生なのかこのやろーめ」

「まあそんな感じのとこが話しやすいというか付き合いやすいというか、からかい…いじめやすいというか」

「おーい、言い直した後のが悪いんだけど?それに僕はからかわれるよりからかう派だよ」

「オレはそんな人を更にいじめる派ですし」


こ、の、や、ろー。
一応僕先輩だよね?そうだよね?別に敬語使えとかそういうわけじゃないけどさ…!
決めた。絶対いじめられてなんてやらない。できるならいじめる、もしくはからかいたいとこだけど、残念ながらそこまでは出来なさそうだ。隙ないんだもん。

鬼道さんはまだ辺見?もといハゲと話している、というかハゲが一方的に愚痴っているように見える。大方ハゲ具合について愚痴ってるんだろう。ハゲろ。

++++

「じゃ、オレしばらく雷門に行ってくるんで」

「俺達もなるべく早く治して退院するからな」

「源田は早く帰ってきてくれよ、部室が散らかり始めてるんだ。成神と佐久間は帰ってこなくていいからな」

「黙れデコ」


幸次郎おま、部室の清掃係なのか。サッカー部の父親、否、おかんなのか。
荷物をまとめた入院組と成神が帝国サッカー部と挨拶を交わしている横で、僕と柚は学校に戻ってからなのことを話していた。…が、そこで柚から私まだ学校戻らないわ発言。えええ。


「その…次郎くんたちと病院に寄ってから帰ろうかな、って。ほら、やっぱり心配で…」


俯きつつ発された言葉に返事を返そうとすると、横からビッシバシと視線を感じた。佐久間だ。そんなに睨まないでよ、別に柚を泣かしたりなんてしないから!てかハゲのデコを殴りながらこっち睨むって器用だなお前!


「うん、だいたい予想はしてたから大丈夫。佐久間としぃぃっかりお話してから帰っておいでよ」

「あ、えっと、そ、そんなわけじゃ…!!」

「はいはい。あ、鬼道さんはどうします?」

「俺も病院に寄ってから帰ろうと思う。源田が大変そうだしな」

「鬼道……!」


感激したのか若干涙ぐむ幸次郎。確かに、柚と佐久間の二人が一緒の空間に一人は辛いだろう。あの二人は近くにいるのが身近な人だと目に入らない(無視するともいう)傾向があるみたいだから。てぃーぴーおーって大事だよね。

佐久間と幸次郎は病院に戻って、柚と鬼道さんはその付き添い。直接学校に戻るのは僕と成神だけ……あれ、待って。
帰るってことはもしかして、さ。


「ぷっ…吐かないように頑張れよ名前、次に会った時にまた笑ってやるから」

「笑うなし幸次郎…また車かこんちくしょう…!」

「あ、はは…とりあえず外に行こう、ね?それじゃあ帝国のみんな、おじゃましました!」

「嫌だよ帰りたくないよ車乗りたくないよー!!」


必死の抵抗も虚しく、幸次郎と成神によってずるずる引きずられる僕。鬼道さん、哀れむくらいなら助けて。成神はにやにやすんな、幸次郎は…まあいつもか。
今ばかりは、にこやかに見送ってくれる帝国サッカー部とほわんとした空間を作り出している佐久間と柚が若干憎たらしかった。幸せそうでいいな畜生、僕はこれから地獄行きの気分だっつの。



嫌なことをrepeat
(ああ、水希達は何してるかな…僕、学校に着くまで生きてられるかな…)

++++
repeat…くり返し。

次から水希視点。柚達が帝国に行ってる間のお話。
prev / next