響け僕らの | ナノ


▽ 16

「ほら名前、着いたぞ」

「………」

「起きろー」


……、体起こしたら頭ぐわんぐわんしそうだ。寝てたいよ起きたくないよむしろ動きたくないってか動けないよ、お願い揺らさないで幸次郎くん。



もう無理嫌だやめろよの意味を込めて幸次郎の腹を殴る。ちくしょう腹筋やばいな。
こいつ、たしかに寝かせたりとかはしてくれたけど本当にずっと笑ってやがったよ。顔は見えないけどずっとくすくすくすくすと…腹筋震えてるからすぐにわかるわ!

…まあとにかく、頑張って体を起こしてみた。


「……ぐわんぐわんするぅぅ…」

「まあ予想はしてた。が、変わらないどころか酷くなってないかその車酔い」

「名字、顔が真っ青通り越して真っ白だぞ」


鬼道さんから血の気の片鱗も見当たらないなとのお言葉をいただきました。嬉しくない。それから柚と佐久間が大丈夫か尋ねてきたけど答える気力がない。大丈夫じゃないっす。


「仕方ないから、ね?行くよ?」


最悪だ。

++++

そして、いろいろ頑張ってたどり着いたここは帝国サッカー部の活動場所。来た時は休憩時間だったのでちょうど良かった。

柚と佐久間は荷物を取ってくると校舎に入る前に、佐久間が「源田のも取ってきてやるからそこにいろよ、てか来るなよ」と、わざわざ言ってから入っていった。…柚と二人がいいのだろうと想像できるね。

一方、僕は現在ベンチの椅子にぐだっと座っていた。幸次郎が隣で笑ってやがる。ちっくしょぉぉぉ。


「源田お前、隣のちっさいやつはなんだ?」

「車酔いで死にかけた親戚」


そんな時目の前に現れたこのデコ野郎は辺見というらしい。ちっさいのってなんだよハゲろお前。てか至極真面目にいらんこと言うな親戚。


イラっとしつつもおとなしく座っていると、だいぶ気分も良くなった。ずっと居てくれた幸次郎に一応礼を言うと何故か笑われた、よ。…さっきからずっと笑ってるんじゃない!と、背中をぶっ叩いてから顔を上げる。ため息をついたときだ。

後ろで誰かの足音がした。振り返ると、こちらを見ていたらしいヘッドフォンをつけた男の子とばっちり目が合う。


「アンタ、源田先輩の彼女?」

「はい?」


突然すぎた。おそらく叩いたとこも見ていただろうに、あんた誰ならまだしも隣の馬鹿の彼女か?ときた。この馬鹿に限らず、僕が誰かの彼女になるなんて…うおお気持ち悪い。


「僕が幸次郎の彼女なんてありえないよー」

「こいつはただの幼なじみ。久しぶりだな、成神」


返事を聞いてふーん、と納得した様子のこの男の子は成神というらしい。幸次郎を先輩呼びしてるから一年生みたいだけど、ヘッドフォンつけたまま学校歩くって…帝国の校則、意外に緩いのかな。

だけど、緩そうな校則よりも遥かに気になることがあった。


「…僕、ものっそい気になるんだけど」

「何がだ何が」

「成神のこと」

「…は!?」


何故か赤くなって驚く二人を尻目に、僕は考えた。気になるんだ、成神の、動きが。

体で、歩調で、すごく自然にテンポやリズムを刻んでる感じがする。たぶん、今ヘッドフォンで聞いてる曲のテンポじゃないかな。

少ないと思うけど、いくら練習してもテンポとかがとことん取れない人っていたりする。だけど反対に、初めて聞く曲だろうとなんだろうと、聞いてすぐぴったりテンポやリズムを取れる人もいる。絶対音感ならぬ絶対リズム感、的な。これも少ないだろうけど。ちなみに、僕の場合はほとんどの人と同じく、練習すればだいたい取れるようになるパターンだ。

とまあそれで、だ。もし…もしもこの成神が正確なリズム感を持っているなら、是非とも指揮者とかやって欲しいよね。


「てか、うん…やっぱいいなあ(リズム感あるのって)」

「…!?まて名前早まるな、成神はまだ中一だしきっと遊ばれるぞやめておけ、成神なんか選ぶんじゃない」

「なんかって失礼っすね源田先輩。オレ遊びとかしないし、結構一途なんですよ?」

「そ、そうか…いやだけど駄目だまだ早い!」

「…アンタはこの、名前さん?の父親っすか。それとオレ、名前さんみたいな人結構タイプかも」

「成神…!お前にこの馬鹿はやらん。それとさりげなく名前で呼ぶな」

「お前もさりげなく馬鹿言うな幸次郎。何キャラだお前、ホントに父親か。てか何話してんの」


なんか勘違いしてないかお前ら、と、ぽつりと呟いてしまう。
そんなとき視界の隅に見えた鬼道さんはデコ野郎と話していた。ハゲろハゲ。
…八つ当たり?当たり前!



僕らのピッチがあってないよ
(なんか互いの思考に違いがあるんですけど)

++++
ピッチ(pitch)…音の高さ。音の振動数の相違。
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