響け僕らの | ナノ


▽ 15


「おい、起きろ名字」

「ぅー……ぇ、…あれ…」

「病院に着いたぞ」


軽く揺すられてて目を覚ました。まだちょっと眠ってたいなーなんて思って目の前の腰に手を回しちゃったけど、そうか、着いたんだ。よく頑張ったよ僕。頑張った。そういえば僕ひざ枕してもらったから眠れたんだっけ。じゃあこの腰…は……うわぁぁぁぁ!?



「う、あ、う」

「…その、くすぐったいというか…恥ずかしいんだが」

「すっみませんしたぁぁぁぁ」


全力で謝りつつ、すぐさま身を起こす。なんてことをしたんだ僕は、寝ぼけすぎだ。ごめんなさいまじでごめんなさい。
鬼道さんの表情を窺う。だいたいはいつも通り冷静…だけど、若干頬が赤い。珍しい、じゃなくてごめんなさい。


「いやそのほんとごめん、というかありがとうございました」

「気にするな。とりあえず降りるぞ」


柚は先に降りて僕らを待っていた。にこにこしている。これはあれだな、彼氏に会えるのが嬉しいんですね。まったく、純粋すぎてからかう隙がない。もっとも、万一からかったりなんてしたら彼氏に制裁されそうだからやらないけどさ。

それじゃあとにかく行こうかと入口に向かって歩き始めた時だ。

なんか、聞こえた。なんかっていうか、叫び声に似た声が聞こえた。で、それが聞こえた途端、柚の顔がこれ以上ないくらいに綻ぶ。声を発したらしい人影を視界に捕らえるとそちらに向かって大きく手を振った。
間違いなくあいつだ。病院の入口で叫ぶな。鬼道さんも相変わらずだなとため息をつく。


「柚ー!!」


入り口で叫ぶ帝国サッカー部参謀…とか言われてるらしい奴、佐久間次郎。こいつこそが、柚の彼氏である。あ、幸次郎がうるさいって叩いた。

佐久間次郎と源田幸次郎。入院中のこいつらを連れて帝国に行きます。二人は帝国へ荷物取りに行きたいんですと。(片方は柚に会いたいってのもあるだろう。絶対。)(お医者さんの許可は取ってあるよ!)

++++

「次郎くん、怪我は大丈夫?あんまりお見舞いに来れなくて…ごめんね…」

「こんなの平気だ、気にしなくていいさ。久々に会えて嬉しいよ。…会いたかった、柚」

「次郎くん…!私も、会いたかったよ!」


手を繋いで歩く二人の後ろについて歩く。毎回思うけど、二人ともお互いが本当に大好きなんだねー。てか柚、君四日前にお見舞い行ってたじゃんしかも部活帰りに。

道端だろうと学校だろうと相手がいればすぐに駆け寄るし、二人でいる時は幸せーって感じの雰囲気醸し出しす二人。あれが恋なのか…なら、恋って凄いなあ。あんなに相手を想えるなんて。


「名字、あの二人のあれは少し…特殊だと思うぞ。全部が全部あんな風になるわけじゃない」

「鬼道の言う通りだ。まあ、悪いことではないけどな」

「へぇー……って、二人ともなんで考えてたことわかるのさ」

「口に出してたじゃないか、あれが恋なのかーって」


言われてそういえばそうだったと気づく。またやっちゃったね自分!どんまい!
下を向いて盛大にため息をつくと源田、もとい幸次郎が笑う気配がした。いや笑うな。軽く睨むと、名前はちっさいな、と言ってまた笑われた。ちくしょう首が痛い、幸次郎はでかすぎる!


「考えていることを無意識に口に出すのも、背が小さいのも相変わらずだな。直接会うのは三ヶ月ぶりのはずなんだが」

「せ、背は伸びた!…ちょっと」

「要するに伸びてないってことか」


伸びたって言ってるじゃんかと抗議してもはははと笑うだけの幸次郎、しまいには身長という最大の壁を利用して頭をわしゃわしゃされた。すいません、結んでるのが見えませんか。解けるだろうが。髪を結い直していると、鬼道さんが呟いた。


「しかしお前達が知り合いだったとは…」

「ああ、前は言う必要もなかったしな」

「…言ってなかったっけ?」

「おい」


幸次郎と僕は一応親戚らしい。まあそんなに近い親戚じゃないらしいし、親戚というより普通に友達みたいな感じかな。

幼稚園の頃に親戚同士の親睦会かなんかがあって、そこで初めて幸次郎に会った。思えばあの時点で身長抜かされてた気がする。…とにかく、そこに居た同年代の子供は幸次郎だけだったし、なんか優しそうに見えたしで一緒に遊んだんだ。親の方も住んでる場所が近いとかで仲良くなってて、そっから名字家と源田家の交流が始まったわけです。

「馬鹿だな名前」

「馬鹿じゃない!幸次郎のばーか!」

「まったく、小学校の頃は俺のことお兄ちゃんって呼んで可愛かったのに」

「言うなぁぁぁ!くっそー、体成長してるくせになんでそういうとこは変わんないのさ!」


過去の記憶を蒸し返すな馬鹿!ああ、こいつ身長はぐんぐん伸びるし声低くなったし運動もできるししかも無駄に美形に育ちやがって!ばーかばーか!そんな僕らを鬼道さんが変な目で見ているのにいまさらながら気がついた。「お前達、そんな性格だったか?」「名前にはだいたいこんなもんさ」「僕限定だったの!?幸次郎のばーか!」ちょ、そんな目で見ないで鬼道さん。


「…だけどまあ、元気で良かったよ。入院直後はボロボロだったし」

「そうだ、試合見てたか?」

「いや見てない。お見舞い行っただけでも喜びなよ」

「はいはい」


なんてことしてるうちに車に着い…そっかまた車乗るんだっ…け…。
車もまだ駄目なのかと笑う幸次郎。しゃらっぷ!うっさい!


「ここに来るまではどうだったか知らないが、帝国までは俺が見て笑っててやる」

「行きは鬼道さんのおかげでどうにか。…てか笑うなよ」


どっかから出したタオルを頭に被せられてわしゃわしゃされた。解けるっつってるでしょ。



アンダンテで行きたい気分
(車なんて嫌いだ…!)
prev / next