▽ 12
「まあ、叫んだ気持ちもわからなくはないけど」
「多少の覚悟はしておいた方がいいんじゃない?」
「でっすよねぇぇ…」
あぅぅわぁぁぁ…と、近くの壁伝いにずるずるとしゃがみ込む。壁に頭突きして現実逃避したい…もうぶつけてるけど。
女の子達に向かって叫んだ、後。とりあえず女の子達は帰ってくれたのだが、僕は新たな問題に直面していた。
叫んで追っ払ったことにより、僕は女の子達からあんまりいい印象を持たれてないはずだ。自業自得?違う、不可抗力だったんだ、と思いたい。
とにかく、それにより明日からの生活に支障が出ないか心配だ。女の子達、特にサッカー部のファンクラブ的な人が怖い。最近の子は何かどろどろしてて黒いオーラを滲ませることが(特に柚とか柚とか水希とか…あれ?)…ある気がする。僕ってばにわとりさんだから怖いよーはははー?
まあでも、叫んだことによって招いた事象は悪いことばかりではなかった。
ぞろぞろ女の子が帰る中、数人の子が残って話し掛けてきた。先程気まずそうにしていた子達が、わざわざ謝るために残ってくれたらしい。さらにその中の四人は楽器経験者で、できることがあるならと、真面目に助っ人に入ってくれたのだよ!金管二人とベース一人にピッコロ一人、いい具合にばらけてくれてて助かった。なんていい人達なんだ。
この四人の助っ人が入ったことで、クラリネット以外はどこのパートにも経験者が一人はいる状態になってくれたため、それからの部活はかなりスムーズに進んだ。これならなんとかなるかもしれない。
++++
そして明るく終わった部活。の、翌日の学校。
やはり予想通りというか何と言うか、僕の下駄箱には大量の画鋲。教室に行くまで女の子は睨みつけてくるか無視のどちらかである。
……なんてことはまったくない。何故だ。いや、別にされたいわけじゃないけど。
だけどさ、今の回想程ではないにしろ何かあるのではないかと身構えて来たから、何もないと逆に怖い。教室に着くまでも、いたって普通に挨拶されただけ。わお、いつも通りの朝じゃないか。というか寝起きが良かった分いつもより清々しい朝じゃないか、自分。
疑問を抱えながらも教室へ到着、自分の席へ直行する。いやほら、もしかしたら机にだけ異常が!?的な展開かもしれないし。…まあ、ここまできてそれはないだろう、けど、……あれ。
僕、昨日も一昨日もその前も、机の中はからっぽにして帰ったのに、なー。なんか手突っ込んだら、がさって音と紙の感触がしたような気が、する、なー。
………遂に…遂にきてしまったのか?何も起こらない平穏な日々はやはり叶わないのか…!?
ひくり、と頬が引き攣る。だがいつまでも目を背けることはできないんだ、僕は真実をこの目で見据えてみせる…!嫌だったら迷わずに逃走もしくは逃避、要するに逃げるけど!
…まあとりあえず心を決めて。
「はいせーの、何て書いてあるかな」
あっさり取り出して開いてみた。そこは恐る恐るやる場面だったはずだなんて別に関係ないんだよ、ははは。やることは早めに済ませよう。
で、開けたそれに早速目を通す。えーと、えーと、…えーと、え?
読み終わってぽかんとしてしまった。だってこれ、あんまりにびっくりな内容で、尚且つすっごく嬉しい内容だったから。
「お、おはよう名前!」
「おはよ、守!朝練終わったの?」
「ああ!ところで名前、いいことでもあったのか?」
「え?」
「なんか嬉しそうに笑ってるからさ」
朝ご飯がおいしかったのか?なんて的外れなことを言われたけど、まあそんなものだよと返した。それに、嬉しいのは本当だから。
今日もいい天気、日常に支障はなさそうだ!
穏やかなアクセントを(「昨日は邪魔してごめんなさい。吹奏楽部の皆で、頑張って!」なんて内容が書かれてれば、嬉しいに決まってるよ)
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