響け僕らの | ナノ


▽ 11


「あ、ども。ご用件は?」

「あの、サッカー部の人達もやってるって聞いたんで、それなら吹奏楽部の助っ人やりたいなって思って来たんですけど」

「……またか」


純粋に助っ人として来てくれるなら嬉しいけど、これはあの、あれだよね。
サッカー部の皆さんとお近づきになりたいからという理由で皆さん来てやがりますよね。ここ三日間で何人…いや何十人目だよこのパターン。



「また助っ人希望者?」

「ん。帰ってもらったけどね」


そりゃさっきの人、サッカー部がいるならってあからさまに言ったからね。当然お帰りいただきました。
部活が始まってすぐにやってきた、この助っ人希望者ラッシュ。最初のうちは素直に喜んだりしたけども、経験者でもないのに来るわ教えようとしてもそっぽ向いて小さくきゃーとか叫んだりしてて、どうにも真面目にやりに来た気配がなかった。そんなもんだから嫌でも気がつきます。
サッカー部目当てだなって。


普段はサッカー部の練習を遠目から見ることしかできない一般生徒。かと言って近づくためにマネージャーやろうとしても人数足りてる…、ように見える。夏未さんいるから怖いみたいだし。
(けど秋いわく、あと一人くらいマネージャーがいると助かるらしいよー!)

それが今、サッカー部は期間限定だが吹奏楽に所属中。人数もちょうどいいにはほど遠いためにまだ助っ人は募集中、これは普段サッカー部と接点のない生徒からすればまたとないチャンスなわけらしいです。よかったね!


「…って何もよくないわ!!」

「うおっ?」

「名前、いきなり黙って考え込むのもいきなり叫ぶのもやめてよ。うるさい」

「マックス酷い!でもさ、ここは本番間近な吹奏楽なんだよ?そりゃ今はサッカー部いますけどね、サッカー部目当てで助っ人ー、とか本当に……!」


いい加減にしろよ馬鹿ぁぁ!と叫んでやった。あああ貴重な休み時間が叫ぶだけで終わりそうだ…自業自得ですね、はい。
叫んでへたーっとしている僕を哀れんだような目で見る竜吾と、自分が使うクラリネット(愛称はリーネ)のキィを滑らかに動かすマックス。さすが器用なマックスさん、ドレミファソラシドの指使いはもうすっかり覚えたらしい。よかったよかった。


「そーいや半田は?」

「半田は…確か楽譜を印刷しに行かされたんじゃないっけ?じゃんけんで負けたから」

「そうそう、勢いかなんかで指三本出したんだよね。チョキだかグーだかわかんない変なやつ。いやーさすが中途半田」

「中途半田って言うな!」


あ、中途半田。がらっと扉を開けて入ってきた半田に対する僕らの見事にはもった第一声に、半田はがくりと肩を落とした。普段ならあと四秒くらいそのままでため息をつくはず…なのだが、今回は二秒くらいで顔を上げた。


「ところで名前、音楽室の前に女子の集団が来てるけど?羽柴が困ってるみたいだったぜ」

++++

なんだこれ。音楽室に全速力で駆けてきた僕の頭の中では、今の台詞が三回ほどリピートされた。

音楽室の前で固まる女子の集団は、ざっと見ただけでも三十人くらいはいる。さながらクラスでの移動教室を彷彿とさせる光景、なんだこれ。ちらっと見えた表情を見るに、柚は困り果てているようだ。

「おいおい、一体何の騒ぎだよ?」

驚いた様子で声を上げる竜吾。と、その声に気がついた何人かの女子がこちらを振り向き、あっと声を上げた。


「あ、松野くんだ…!」

「染岡くんもかっこよくない?厳ついけど…」


…女の子の目的はだいたい理解した。やっぱりあれなんだろう、僕のイライラの元凶になってる行動しにきてるでしょ。…うわぁぁもううわぁぁ…!


「ふざけるのもいい加減にしてよちくしょー!!」

「名前!?」


思い切り叫んでやった。もう我慢ならない!


「ここはサッカー部を見に来る場所じゃなくて、吹奏楽部の活動場所なの!サッカー部がいるからーとかサッカー部を見たいからとか、そんな理由で来ないでよ!」

僕も柚も水希も助っ人にきてくれた皆も、一生懸命練習してるんだ!


そこまで叫んで、はーっと息を吐いた。女の子達を見ると、罰の悪そうな顔してる子もいるが、嫌そうな顔してる子もいる。

…あれ、僕、すっごくやばいことしでかした気がする。つい叫んじゃったけどさあ、あの、もしかしなくても女の子達からの視線が痛い、びしばし刺さってる。あの、怖いです。


「あー…えーと…いきなり叫んですみません…?」

「……名前…」


が、ま、ん、は?柚の口がそう動いた気がする。というか確実に動いた。

うなだれた僕の肩をぽんぽんと叩いた竜吾。

「すぐ謝ったのはいいけどよ……いきなり叫ぶなって言われたばっかじゃねーか、ったく」

「…すみませんっした…」


我慢、女の子の集団、後先考えるのは苦手です。


三拍子の曲は例外なく苦手
(あー、僕ってば最近短気だなー)
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