▽ 08
「やっとお昼ご飯…な、長かった…!」
「え、なんでそんなに死にそうなの?」
「…体育、あった…から…」
僕は体育苦手なんだ、疲れたんだよ。もしも男子と一緒にサッカーだなんて言われた日には間違いなく動けない気がする。
朝の約束通り、マックスと半田とお昼ご飯を食べに近くの空き教室にやってきた。窓の方はいい感じに日があたって暖かいし、そんなにほこりっぽくないし人もほとんどいないしと、けっこういい場所なのだ。
うわ、誰かとお昼食べるのって久しぶりだ…いつも一人で食べて昼寝してるんだもん。
「うん、やっぱりこういう場合は屋上で食べるのが王道だと思うんだよね」
「それ何の王道だよ?」
「中途、馬鹿。じゃあいただきます」
「中途じゃねー!が、とりあえず俺もいただ…て、え、おま、早くないか!?」
「いやいや普通だよ。ごちそうさまー」
マックスが王道がどーのって話し始める前に僕はもう食べ始めてたからね。ま、半田の突っ込んだ通り、他の人よりかだいぶ早いのは自覚しているところだよ。良い子はしっかり噛んで慌てずゆっくり食べよう!
パックの牛乳を飲み干してぷはあっと息をつく。あー、落ち着いた落ち着いた。
「というわけでマックス、そのニット帽について語ろうよ。それって他にもスペアとかあるの?」
「柄とか色は違うけど、二つ三つあるよ。あとは寝る時専用のとか。で、僕は吹奏楽部のことについて知りたいんだけど…あ、ちなみに僕はクラリネットらしいよ」
「そっか、スペアあるんだ。クラリネットは木管楽器だよ」
ニット帽についてはそんなに語れないようだ。けど一番知りたかったスペアの有無は知れたのでまあよしとする。
木管楽器?と首を傾げる二人。よし、では簡単に説明してあげようじゃないか、わかることだけ!
「なんで木管楽器って言うのかは知らないけど、クラリネット略してクラは木管。ちなみにバスクラとかオーボエはもちろん、フルートとピッコロ、それからサックスも木管に分類されてるよ」
あ、バスクラはバスクラリネットのこと(たぶん)。サックスに似たでかいクラリネットみたいな低音楽器です。
ちなみに、クラとかサックスとかはリード楽器だから、それぞれの楽器に合ったサイズのリードがなきゃ吹けないよー。あとクラは組み立てめんどいよー、ちゃんとコルクグリスつけてから組み立てないとたまに取れなくなるよー?それから…、
「ストーップ!わかった、いや全然わかんねーけど…とにかくわかったから。そんな一気に言われてもわからないからな俺達」
「結局わかんないんじゃん半田。てかあれ、全部口に出てた?」
僕、また思ってることを口に出してたとか、うわー。
それに対してえぇぇと驚く僕ら三人。あれ、なんで僕まで驚いてるんだろうね。まあいっか。
「とりあえず、木管楽器はいろいろ必要ってことだよ。まあ、だいたいは学校のがあるから大丈夫だよ」
「そっか、けっこう大変そうだね。半田は何の楽器だっけ?」
「俺?俺はぱーかっしょん?とか言われた」
「まじ?うわ、頑張れ半田!柚もいるから大丈夫だとは思うけど…」
え、頑張れ?と若干顔が引き攣る半田。というわけで、また心優しい僕がパーカッションについて説明をしてあげよう。今度は簡潔にね。
「パーカッション、略してパーカスはねー、いろいろやるよ。いろいろ」
そう、いろいろ。
…簡潔過ぎた。さすがに短いから補足。
「ドラムとかシンバルとかいろんな太鼓とか」
「げ、まじ?」
「あとはトライアングルとかタンバリンも…あ、クラベスっていう火の用心で使ってるみたいなやつも」
「そんなのも?うわ、俺できんのかな…」
どよーんと沈んだ半田。けれど大丈夫だ、安心するがいい。パーカスには柚がいる、イコール最強。教えるの半端なく上手いから。中途半端じゃないから。
一つだけ注意しなきゃいけないのは、柚の彼氏かな。あの人、柚に近づきすぎた輩には容赦ないからなあ…。下手なことするとペンギンに殺される。ほんとーに柚大好き彼氏さんで、いろいろ凄い人だ。
そのことを伝えると、半田は微妙そうな顔で唸った。それからマックスも、何やら少し考え中のようだった。ちなみにその彼氏、サッカー部、特に鬼道さんには馴染み深い人物であったりする。
「大丈夫か、俺…?」
「まあ頑張れ。ところでそのメロンパンちょうだいよー」
「いややらねーよ、これ俺のだ!」
「ペンギン、ペンギン…いや、まさかねー…」
結局部活の話はそこまでで、わいわいしながら過ごした昼休み。うん、これはこれでいいなって思うよ。
だけどマックス、いい加減ペンギンペンギン唱えるのストップして。そのうちペンギンが召喚される気がするんだ。
お昼休みの四分休符(たまには誰かと食べるのも楽しいもんだね。あ、そろそろ教室戻ろっか)
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