響け僕らの | ナノ


▽ 07

「こっちのパート割は終わったから、後は円堂くんと染岡くんの担当を決めてから帰ろう?」

「帰ってきたばっかでいきなりそれか。…じゃあどうしよっ」

「それなんだけどな、よければチューバやらしてくんねーか?」


また遮られたし!そんなに遮るのが好きか!そしてまさかの竜吾から希望ありですか!


音楽室に戻ると、やっぱりほとんどのメンバーが帰ってしまっていた。まあ、部活動終了時間とかとっくに過ぎてるし当たり前か。

柚達でサッカー部のメンバーの担当楽器を決めてくれたらしく、残りはいなかった守と竜吾だけとのこと。というわけでどうしようかーとなったところに、先の竜吾の発言だ。びっくりして硬直した僕たちに、竜吾が慌てて説明した。


「昔、親父がチューバをやってたらしいんだ。それで何度か吹かされてな…基本は覚えちまったんだよ」

「染岡くんチューバ決定。ナイスよ染岡父」


柚の反応は速かった。早いじゃない、速い。
さっと竜吾の身長その他諸々を確認して即座に親指びしぃっ。部長の決断力は侮りがたかった。


「流石に風丸くん一人だと不安だったのよね、よかった。チューバは全体のベースになるからしっかり頼むね」

「お、おう。…何かさっきより性格がびしっとなってる気がするぜ」

「部長モードの柚は頼りがいがあるんだー。さ、あとは守だね…あれ、どしたの守?」

当の本人である守はといえば、ある楽器をじっと見つめていた。

その楽器はホルン。マウスピースはすごく小さいのに、管はすぅーっごく長い。確か管楽器の中では一番長かったと思う。そんなホルンを見つめたまま、守がぼそっとつぶやいた。


「…丸…サッカー、ボールみたいだ…」

「ぼ、ボール?」


呆気にとられてオウム返しに聞くと、守は頷いてからぱっと振り返った。


「名前、俺あの楽器がいい!あれとなら仲良くなれそうだ!」

「は?」


どういうことだね守、仲良くってなんだ。

理由を尋ねたところ、「他はよくわからないけど、ホルンは丸くてボールみたいだからなんか気になる!俺、こいつとならやっていける気がするんだ!」…ということらしい。いやはや、とりあえずホルンがいいんだなってことしかわからないんだけど。
柚の方を見ると、守とホルンを見比べている。それから、守にホルンを持ってみるように指示した。

「っと、こんな感じか?」


ホルンを構えてみせる守。どっかで似たような構えを見たことがある気がする、そんな感じだ。そしてそれを見た柚の反応は明るかった。

「それじゃあ円堂くんは、そのホルンをお願いね」

「おお、任せとけ!」


頑張ろうなホルンー!とはしゃぐ守は放っておくことにする。とにかく、これで全員のパート割ができたわけだ。
ということで、本日の部活は全部終了!

「名前、楽器片付けなさいよ?あと制服に着替えなさい」

「あ」


楽器片付けてなかった。ジャージのままだった。僕はまだ帰れないみたい、です。

++++

翌日、朝の学校。ばらーっと登校していく生徒達の中に、特徴的なニット帽が見えた。ピンクと水色のしましま模様のねこみみニット帽…と、隣に特徴のない茶色もある気がする。うん、あんなの被ってくるのはマックス以外いないよね。


「マックスーおはよー」

「あ、おはよう名前。眠そうだね」

「まあね、眠いから。今日暇なら一緒にお昼食べよー、そのニット帽について語るために」

「いいよ、ニット帽はともかく部活のことは聞きたいし」

「……お前ら、俺のことは無視か?」

「え……あ、半田…半田?いたんだ!?」


マックスとお昼の約束を取り付けていると、横から声がした。は、半田…特徴なさ過ぎてただの通行人、かと…いやほんとに。一方、ほんとに気づいてなかったのかよ!と喚いてマックスに叩かれる半田は、やっぱり声の音量も半端だった。


フラット忘れてた
(ごめん半田、気づかなかっ…あれ、そういえば同じクラスだったような気もする)
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