07 コース決定



夏休みも終わり、私はここ一週間久しぶりの制服でさえもどきどきしてしまう。9月の中旬に迫った修学旅行、佐藤とは班も一緒なのだと思うと足がはずむ。

タイミングを見計らった様に、行きの道で佐藤と会う。そうだ班長と副班長は夏休みに一回だけデートをしたのだ。気さく風に挨拶をどぎまぎと済ませて、自然に並んで歩きながら学校へ行く。今日は朝練が無いんだと爽やかに言ってみせる笑顔に私はひたすらに感謝の念しかなかった。

「修学旅行、今日コース決めだね?」
「あ、そうだね。山田は行きたい所とかはないの?」
「いや…、清水の…客席かな。」
「舞台だね。」

迂闊だった。私は佐藤と行けるという事実に浮かれて行きたい場所なんて考えていなかった。お母さんがいつか買ってきたガイドブックを私は運良くカバンに入れているので、お昼休みにでも読んでおこう。

「佐藤はいきたい所ないの?」
「夏休み、修学旅行の事なんて全然考えてなかったからなぁ。」

そういえば、修学旅行の話題なのにあの日のような感じではない。私は普段の佐藤で嬉しいはずなのに、その背景をまさぐる様に気になってしまう。

「そういえば、山田は海堂に行くんだよね?」
「うん、夏休みの模試もいい結果だったから。問題が無ければ海堂を受けようと思ってるよ。」
「そっか。じゃあ一緒に海堂に行けるといいね。」
「うん、うん!」

教室に入ると、なんだか新鮮だった。見慣れた顔のはずなのに色が黒くなってたり、髪の毛の長さが違ったりとなんだかみんな知らない人みたいだった。

「なんか、みんな変わったね。」
「山田だけ変わってないのが変な気分だよ。」
「私、焼けない体質だしね。」

そう笑いながら話していると友達に呼ばれる。グッバイ佐藤との登校時間。久しぶりに会えた事もあって、切り替わりは早かった。

友達とお土産話で盛り上がっている最中、男子に掴まる佐藤に視線をやる。偶然にも目があってしまい、心臓がはねる。話しに戻る風に笑いながら逸らしたが、跳ね上がったものはすぐには止んでくれなかった。

「今日中にコースを決めろよー!」

私と佐藤の席の近くに、班員が集まる。みんなそれぞれに持ってきたガイドブックを広げて、軽い論争が起こる。

「抹茶ソフト、湯葉、お饅頭…。」
「食べ物ばっかりかよ!」

倉本くんに言われて、私は施設紹介ページを開く。どれも同じに見える建設物、恋がかなう石は見ない振りをした。

「やっぱり、金閣寺とか?」
「清水の頭痛に効くお守りを買おうかな。お母さんに。」

配られた京都の名所マップなるものに、決定したコースが書き込まれる。

「…そういえば、佐藤は行きたい所ないの?」
「楽しければ何でもいいから。」
「倉本くんいるしね?」
「ああ…うん。」

花子がいればどこへだって行くよ。という言葉を頭の中で補充する。地図には、赤いマーカーペンでぐるりと旅館を拠点に不格好な丸が書かれた。


修学旅行は再来週だ。



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