05 三船東と闘って



私は夏休みに入り、仕事に行くお母さんと同じ時間に初めて起きた。驚いたお母さんを横目に、昨日から考えていたワンピースに袖を通す。

「デートなの?」
「違う、友達の試合。」
「そ、熱中症に気をつけてね。」

そう送り出されて、私は時間通りにバスに乗る。今日見に行く試合は三船東とらしい、誘われたのは一回戦とばした試合なのは不思議だったけれど ほとんど圧勝で進んでいく今年の友ノ浦を考えて、もしかしたら強敵なのかもしれないと思っていた。

試合会場に着くと、綾音ちゃんがいた。

「綾音ちゃんもきてたんだ。」
「はい…。」
「どうしたの?」

私がそう訪ねると、綾音ちゃんと一緒に来ていた友達を置いたまま 私を連れ出した。コンクリートで冷えた通路で立ち止まって、綾音ちゃんは重そうに口を開く。

「佐藤先輩、三船東の投手の人と険悪な雰囲気で…。すごく怖い顔をしてました。」
「佐藤が?」
「はい…。」

知らない。誰かと喧嘩する佐藤も、怖い顔をする佐藤も。綾音ちゃんは私に必死に伝えようとしても、想像じゃ追いつけなかった。ひとまずベンチに戻らせた。

「綾音ちゃん、飲み物はいる?」
「…ありがとうございます。」

私はベンチに座る1年生2人にジュースを渡す。綾音ちゃんはマウンドらへんをぼーっと眺めている。何かあったら相談してと言ったのに、私ですらも分からない話しに何の糸口も見えなかった。

試合が始まり、三船東の投手は時たまに叫んでいた。友ノ浦の先取点で試合は進み、勝敗も見えてくるかと思った。三船東は初歩的なミスで点を許してしまったが、その時に捕手と子と投手が話し合った後から少しだけ空気が変わり始めたのだった。

倉本が言うには、佐藤は海堂の野球推薦を貰っていたらしい。今はどうなのか知らないけれど、佐藤が誰かと険悪になるなんて今まで一度も無かった。だけど、もしなるならやっぱり野球に関係するんだと思う。私は強く攻撃的で熱すぎる目を知っている。

結局試合は負けた。

私は佐藤に掛ける言葉も分からなくて、会わずに家に帰った。部屋に着いてももやもやし続けた、何も分からないまま応援に行って 綾音ちゃんも慌てて 私はどうすれば正解だったのだろうか、不正解も分からない。

ベッドに飛び込めば、ひんやりとずぶずぶ沈んでいく。佐藤を好きになって、知りたくなる程に知らない佐藤とか知れないのにすぐそこにある佐藤とか 何も関係は変わってないのに、1人で迷走している。今まではそんな事なかったのに。結局は駅前の本屋にいた女性たちの通り、高嶺の花なのだろうか。だけどいつも佐藤はフランクに笑ってくれる、いやそれも私の知ってる程度内だけれど。

「だけど好きになってしまう。」

暗い部屋にそのつぶやきは誰にも届かずに、消えていった。

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