04 制服じゃない君



「14位…、これはかつてみない好成績かもしれない。」
「あ、山田順位上がったんだ。」
「佐藤!」

テストも終わり、順位が個人表として配られる。佐藤の個人表には2の文字が打ち込まれていて、生意気にと私は佐藤の肩を小突く。

「去年末は20位だったよね。」
「よく覚えてんじゃん。」
「山田は高校どこ行くの?」

個人表と一緒に配られた、志望校の調査の紙をぺらぺらと見せてくる。

「設備の良い海堂か、三船かな。」
「そうなんだ、俺もだよ。」

奨学金さえ取れば、親に負担はさほど掛からないだろうし。海堂は甲子園にも常連で、社会的にも知名度が高いから将来就職の時に海堂高校出身というワードは少し欲しかった。
佐藤が海堂に行くだろうっていうのは、最近考えたことだったから 海堂により行きたくなったっていうのはかなりある。

「お互い、海堂に行けるといいね。」
「ああ。」

佐藤の目はいつもに増して強かった。


「夏休み末に打ち上げ?」
「そう!大会も終わるし、運動部は暇になれるからね!」
「私は運動部じゃないよー。」
「花子は特別枠です。」

テストも終わり、夏休みの計画を立てようと受験生らしからぬ態度でファミレスで話し合いをする。ファミレスのファミリー席いっぱいになってパーティー席につれていかれる。バドミントン部7人が打ち上げを企画したらしく、私はバドミントン部の彼女達とたまたま仲良かったから、帰宅部でも誘われた様だ。

「男子は居なくてもいいよね。」
「女子だけの方が飾る必要ないしね!」

どんどん進んで行く話しに耳を傾けるだけでも楽しかった。

「あれ、野球部じゃない?」

私は指される指の方に目を向ければ、私達と同じように私服で着ていた。私は佐藤を探す、そうすると満席の様で紙に名前を書いている。

「なんか、満席で席に入れないみたい。」

私達は自分達の広すぎるパーティー席を見渡して、口々にしょうがないしょうがないと言い始めるが、みんなも佐藤を見つけたのだろう、心なしか嬉しそうな顔をしている。

私は一番入り口に近かったこともあり、野球部の方へ向かう。ドリンクバーのおかわりというおつかいと共に。

「あの、野球部!」
「あ、山田。」「私達の席、パーティー席だから野球部さえ構わないなら一緒でいいよ。」
「俺たちは構わないけど。」
「じゃあ、あの奥にみんないるから。」

私は将来、大女優になれるかもしれない。素敵にシャツを着こなした佐藤を前にこんなに至って平凡な会話風にはなせるなんて。私はドリンクバーにそそくさと行き、頼まれた3本のカップに頼まれた種類のジュースを流し込む。

もしかしたら、隣りに佐藤が来て私のジュースを欲しがるかもしれない。そしたら私はいかにも面倒くさそうな顔をしながらもジュースを差し出し、佐藤は嬉しそうな顔をして飲む。そして私が次に飲もうとした時に佐藤は恥ずかしがりながら謝る。「間接キスになったね…。」

ひやり、私のジュースを持つ手が濡れる。見事に溢れ出たそれらは私の今の狼藉がいかに都合のいい人物設定と運びだったかを物語らせている。虚しくなった私はジュースを少しだけ捨てて、次のコップにまた同じようにジュースを入れていく。

「あれ、私の席は…。」

戻った時には、パーティー席も埋まっていた。電車の様に詰めるものでもないと、私は仕方なく頼まれたジュースを机に置いてからお店の人に椅子をひとつもらい誕生日席に座る。

「ほんとにありがとう。」
「誕生日席好きだしいいよ。」

器量の良いおなごと思われるなら、どんな苦痛も耐えてみせまする。いつかお母さんの田舎でみたB級時代劇が頭の中でリピートする。しかし、現実はそうは上手く行かない。

「海鮮パエリアと、カルボナーラのお客様ー。」

両者とも私がつい20分前に頼んだ、テスト快気祝いの品だった。しぶしぶと手をあげると、友達も野球部も笑っていた。

「あー、昨日の夜から何も食べてないからなー。」
「今朝、親子丼おかわりしたんでしょ。」

もう駄目だ、ただの誕生日席が好きな大食いとしか思われない。私は誤魔化す様に笑いながらちらりと佐藤をみる。

爆笑していた。


私は海鮮パエリアを一口たべる。恥ずかしくて泣きたい私の味がして、ほっとする。

「ていうか野球部が集まるなんて珍しいじゃん。」
「大会が終わったら、引退だしみんなで何かしようと思って。」
「うちらもそうだったんだよね。」

バドミントン部と野球部が話し始める。帰宅部の私は海鮮パエリアとカルボナーラを交互にばくばくと頬張る。

「山田。」
「なに?」
「今度、大切な試合があるんだ。」
「うん。」
「よかったら応援にきてくれないかな?」
「えっ…。」

野球か絡んだ時、佐藤は誰よりも強い目をするんだとその時思った。今まで、ただ優しくてかっこいい同級生としか思ってなかったのに、熱くて男らしい目をみて 私は戸惑ってしまった。

「山田を見てると、勝てる気しかしてこないんだ。」

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