03 二回校則を破る君



テスト期間に入ると、修学旅行で浮き足立ってしまう自分を自制する日が始まる。受験内申として大きく影響する今回のテストはみんないつのテストよりも気合いを入れないといけない。

予想問題集といわれ授業で配られるプリント達を脇に積みながら、塾で言われた宿題を解く。

「どっちが大切かなんてわからない。」
「今日までの宿題を今日やるのはおかしい。」
「土日が緩んじゃうの。」
「ほら、シャーペン止まってる。」

英語の並び替えだと、苦し紛れに言う。佐藤は小さく笑って予想問題集に目を通し始める。野球部で毎日忙しいのだろうから、塾は行ってないはずなのに何でいつも成績はトップを張っているんだろう。まるで模範生徒を描いた様にパリッとした白いシャツに身をくるんで勉強する姿は盗み見してしまうには絶好の条件だった。

班決めの日以降も、佐藤はいつも通りだった。私がみた佐藤は白昼夢であったのではないかとおもう程に至って普通で、予想問題集の右上も皺ひとつない。

「なに?」
「あー、いや!なんでも!」

しっかり視線を送ってしまっていたみたいで、ちゃかすような顔で言ってこられて余計に恥ずかしくなる。

「私も佐藤位、要領よければなー!」
「僕が使ってる、参考書でも教えてあげようか。」

思ってもみなかった機会が巡ってきたと、思わず二つ返事で返す。約束は今日の放課後、駅前の本屋だった。ちなみに校則では、学校帰りの寄り道は禁止だ。しかし放課後まで校則に対する何の罪悪感もなく、ただただ楽しみだった。


「解説が一問についてるんだ。」
「どこで躓くか分からないしね。」
「基礎こそ間違えた時に解説必要だったりするから、すっごい助かる!」

駅前の本屋に行って、佐藤が使ってるという参考書を渡される。赤と緑の二色刷りされたそれは参考書としての質もさながら、佐藤とお揃いという所がくらくらしてしまう程に素敵だった。私はレジでお会計を済ませて、佐藤がいる小説コーナーに向かおうとする。

「ねえ、あの子かっこよくない?」
「わかる!高嶺の華って感じ。」
「学生時代、あんな子がクラスにいたらよかったのにー!」

そう言って佐藤を指差しながら、笑い合う女の人達。私は誇らしい気持ちと、そんな高嶺の華に話しかけて私に対しての評価がくだる緊張感を抱えて 佐藤の背中を叩く。

「本、買えたよ…。」
「あ。ああ、早かったね。」
「何読んでたの?」
「この前買った本の続き、家に帰るまで待ちきれなくて。」

ちょっと恥ずかしそうに笑う佐藤は純粋に可愛かった。私もそんなことあるよって言うと、よかっただなんてまた笑った。

初々しいカップル

さっきの女の人たちが私達のことをそう言った。本当はただのクラスメートなのに、もっと言ってほしいと思う私は少しだけずるいかもしれない。

本屋さんを出ると、佐藤はバッティングセンターに寄ると行って別れた。夢みたいな一時間だったと、私はほくほくした気持ちで佐藤とは逆の道を歩く。いつか、佐藤のそのバッティングセンターにも着いてける様になったら、きっと着くまで長い足をセーブしても一緒に歩いてくれるんだろうな。もう妄想は止まるところが無かった。

それは塾が始まるまで続いて、塾の鞄についつい入れてしまった参考書を出して眺める。

「山田、宿題はやってきたか。」
「はい!友達に教えてもらいながら、なんとか!」

そう先生に言うと、珍しい珍しいと笑って去っていく。私は打ち負かしたような気持ちになって相乗効果で嬉しくなる。今頃、佐藤はまだバッティングセンターだろうか。明日学校に行ったら、ありがとうって言ってみよう。

「あれっ、」

塾の帰り道、お母さんのおつかいでスーパーに入ると見覚えのある顔がいた。持ち物検査でゲーム機を没収された、三つ編みの女の子だ。

「あっ!」

名前が分からず、声を掛けられずにいるとその子も私に気付き声をあげた。

「久しぶり、ゲームの子は元気?」
「あ、はい!…でもなんで?」
「佐藤寿也、私の隣りだから。」

佐藤の名前を出した途端、彼女の顔はみるみる赤くなっていく。複雑な気持ちになると、私はまだ定まらないifを抑える。

「名前、なんて言うの?」
「鈴木綾音です。」
「綾音ちゃん。私は山田花子、また会ったら佐藤のことなら教えてあげるからクラスにおいで。」
「あ、ありがとうございます…!」

両手で顔を押さえる姿はとっても可愛くて、佐藤にお似合いだななんて思ってしまった自分が悲しい。


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