02 修学旅行のこと
3年生は修学旅行がある。夏休み明けに迫った一大イベントにLHRは一段と賑わいを見せていた。あれから、私は佐藤ばかりを目で追ってしまって、たまに絡まる視線からの恥ずかしさを学習せずにいる。同じ班になれることをちょっとだけ願っていた。私のスカートは膝上5cmだ。
「花子ー!組もう!」
「おっけー!」
好子の行動力のたまもので女子の班の人数は集まった、あとは男子でくまれたチームに声をかけるのだろうけど…。
「山田」
「あ、佐藤。」
どきり、心臓がはねる。
「あのさ、班組まない?」
「珍しい。」
「いや、あの金城さんのとこがちょっとしつこくて。」
「しょうがない。」
この際、金城さんのバーターっぽい事は気にしない。修学旅行2日目の自由行動の間、佐藤が見られるのだ贅沢は言っていられないし、あわよくば修学旅行が終わるまで、それを口実にどうにかできるかもしれない。私の脳内はもう下心の独壇場だ。
「じゃあ名前書きに行こう。」
「班長とか決めないの?」
あ と指摘した友達以外が漏らす。私はすかさず副班長に立候補してみる、が班長は決まる空気はなかった。
「僕でいいならやるよ。」
「佐藤くんなら頼れる!」
そう言われて満更でも無い顔を浮かべながら、佐藤は教卓にある紙に名前を書きに行った。
「倉本君は、修学旅行で誰かに告白したりするの?」
「あ、いや全然そんなんねえな。あはは…。」
「漫画じゃありがちだけどね!」
良かった班の男子に変な奴がいなかった。私はもう幸せな気持ちでいっぱいで、今すぐ誰かに大声で伝えたかった。
「じゃあまた修学旅行の話し合いの時に。」
いつの間にか戻ってきた佐藤は意外とドライに、席についていった。私はそれもそうかととりあえず納得して、佐藤を追うように隣りの席に座ることにする。
「修学旅行、楽しみだね。」
「……。」
「佐藤?」
焦点の合わない顔をしている佐藤、今日1日で疲れたのだろうか。新鮮感に喜んでいたか、ふいに不安が襲いかかる。なぜなら、佐藤の右手は修学旅行のプリントに皺を付けていたから。
「修学旅行、嫌なの?」
「え、いや。」
そう言って両手をあげようとした途端、机からプリントが落ちる。私の近くの床に落ちて、それを取ろうと席をたつ。佐藤は小さくありがとうと言う。拾ったプリントにはもう皺が刻み込まれていて、知りたい知れない関係が急にもどかしくなって皺の場所をきゅっと伸ばしてみたけれど、離せば皺は元通りになってしまう。
「はい!」
「ごめん。」
いつも見る顔すら、さっきの表情と比べてしまう材料となる。班に誘われた時のどきどきとは違い、ダイレクトに血が流れている感覚がばくりばくりとする。
佐藤の家は、お弁当屋だ。
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