15 春休み



友ノ浦中学を卒業したという事がいまいち実感の湧かないまま、私は海堂に入学した。見慣れないものに囲まれ、ふわふわとした足取りで入学式の時間帯だけ休みを取ってくれたお母さんと別れる。

配られた入学者名簿を確認して、私の当てられた1年7組に向かう。教室では私と同じように肩を張っている人がたくさんいて、少し緊張がほぐれたが 入り口を開けたことで、凝視に近い視線が集まり また足取りがぎこちなくなってしまう。

ひとつ席を挟んで、窓のある後ろから二番目が私の席だ。椅子に座り、私は佐藤の名前を探そうと名簿を見つめる。同じクラスではないみたいで、少し肩を落とす。

程なくして、担任の先生が入ってくる。教室の浮ついた空気は一気に静かになり、流石進学校というところだった。しかし私は緊張した教室になり違和感に気付くのだけれど、初日というのに空き椅子が多少目立つ。


「一年間のクラスに挨拶の時間という事で、自己紹介をしてください。」

廊下側の前から窓側の後ろへとやっていく様で私は何を言おうかドキドキしていた。意外に緊張しいなのが恥ずかしい。

「でも野球部の推薦の一部が合宿なので、それはまたきたらにしましょう。」

そっか、野球部か。なんておもう余裕もなく私は指折りしながら自己紹介を考えながら流して聞いた。順番に回るのは意外に早くて、気付けば私の番だった。

「神奈川の友ノ浦中学からきました、山田花子です。中学では帰宅部やっていたので帰宅についてなら…、任せて下さい。」

前の子の自己紹介をフォーマットとしたら、よくわからない事になっていた。天文部の活動する天体はみんなが知らない事だからいい訳だ。クラスの緊張した空気からも、少し笑われる声が聞こえる。本当に最悪だ、穴がほしいと早々に席につく。

崩れてしまいたい気持ちを頬杖でくいとめる。好子は5組だ、終わったら早く一緒に帰ろう。



「あ!」
「なによ。」

私はバスの家から最寄りの停留所、1つ前で 佐藤のおばあちゃん達に入学者名簿を持って行こうと思いつく。少し図々しい気もしたが佐藤が合宿でクラスを知らされてない事もあるだろうから…と自分の中で色々と理由をつける。

「私、用事あるから!ここで降りるね。また明日7時50分に待ち合わせね!ばいばい!」

口早にそういって、バスから降りる。ここからの方が佐藤の家には近いのだ。すっかりつい一時間前までの恥ずかしさはなくなっていた。

佐藤の家の前までくると、いつも通り おばあちゃんとおじいちゃんが二人仲良く店先にいた。

「こんにちは…」
「あら。花子ちゃん。」
「海堂の入学者名簿持ってきました。」
「ありがとう、お家にいらっしゃい。」
「は、はい!お邪魔します。」

思いがけない誘いに胸が跳ねる。私はお店のカウンターの脇にある人の通れる隙間から入れてもらい、靴を脱いで佐藤の家に入った。

「まだ、寿也くんが何組か見てないんですけど。野球部は合宿なんですよね?」
「そうなの、帰ってくるのはいつか分からないの。けど手紙をくれるっていってたから、来たら花子ちゃんも手紙かいてあげて。」
「いつ帰ってくるか分からないんですか…?」

私は凄く不安になった。
そして佐藤のおばあちゃんが引き出しから出したのは合宿の案内で、出発日しか書いてないことを改めて説明してくれた。

「寿也は一週間位だと思うと言っていたんだけれど、」
「…記入忘れなんでしょうかね。」

私は書けそうにはない小難しい漢字や熟語の並ぶその紙にいいかえる事の出来ない不気味さを感じたのだ。出発日しかないのは故意なのだろう。



- 15 -


題名一覧/しおり

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -