16 高校生
それから入学式から半月が経ったが、佐藤はまだ学校には来ていなかった。私の教室の空白の席も埋まらないままだった。そんな状況だったが、私も慣れない学校生活に佐藤を心配する気持ちだけがあるだけで特に行動にはうつしてはいない。
「部活、どうしようかな。」
「帰宅のプロでしょ。」
「もう。」
好子とは制服が変わっただけで、話す事も中学の頃となにも変わっていなかった。お弁当を広げ部活の表を眺めながら、部活に入ろうか悩んだ。
「アルバイトもしたいよね。」
「アルバイト…。」
「高校生だもん。」
そうだ、高校生だ。盲点だったそれに部活を選ぶという事が霞むほどの衝撃を受ける。
「でも夜遅くなりそう。」
「けど色んな人と知り合えるし。」
「うん…。」
「恋だってあるかも…。」
「…。」
ミーハーな考えに少し苦笑いをすると、好子はわざとらしい思い出した顔をして思い付いたような声を出す。
「花子は佐藤を追い掛けて海堂に来たんだもんね〜、アルバイトの出会いはいらないか。」
「ちょっと、もう!」
「佐藤って何組の人?」
その声に視線をやると、何人かのクラスメートが興味深い顔で立っていた。私は好子を一瞥してクラスメートに向き直った。
「何組か分からないんだけど、同じ中学だったの。」
「へえ…名前は?」
「寿也、佐藤寿也。」
「入学者名簿あるから、探してみる。」
そして彼女たちは私達の近くの席に座り、鞄からプリントを出した。
「佐藤…佐藤」
「いっぱい人いるから難しいよ。」
「サ行は大体この辺だから、探すのは簡単だよ。」
「ていうか同じ中学ならクラスくらい聞きにいけないの?」
「う…ん、野球部だから。」
「あ、そうなんだ。合宿中か。」
「うん。」
「佐藤くんって格好いいの?」
「え…。」
「格好いいよ、ウチらの中学の王子様だったもん。」
私が言葉に詰まっていると、好子がそう答えた。王子様という言葉は少し偶像な感じがしたけど、他に見当たらないのでそこに私も当て込んだ。
「えー、写真ないの?」
「写真…。」
「花子スケジュール帳に挟んでなかったっけ?」
「ちょっと、やだ!」
「みたいみたい!」
「…うん、待ってね。」
私は机に掛けた鞄からスケジュール帳を出して、裏表紙を開いて挟んである裏返しの写真をそのまま彼女たちの机に置く。
「卒業式に撮ったの。」
私が言うと彼女たちの内の1人がめくった。
「…これ、本当に野球部…?」
「格好いいね。」
「う、うん…。」
そっか、格好いいんだ。なんて少し満足な気持ちになっていると口元が緩んでいたようでみんなに笑われる。
「み、みんなは部活決めた?」
「部活?…どうしようかな。」
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