11 受験生になる日



腑に落ちない修学旅行は、そのまま多くの謎を残して終わりとなった。気付けば、10月になっていて 私は受験までもうあと少しという事に驚きを過ぎて憤りさえ感じた。

「佐藤、11月に試験だっけ?」
「ああ、実技のね。」

修学旅行の時は、もう話してくれないかと思っていた私はよそに佐藤はいつも通りなのだ。それはそれで嬉しい。あと時のセンチメンタルな私の考えが大袈裟だったのもあるかもしれない。

「私も海堂高校に通ってますって言いたいよ!」
「偏差値65くらいだよね、普通科は。」
「5もあげるんだよ。40から45にするのとはまた訳が違うよ。」
「実技試験が終わったら、山田の苦手な数学教えてあげるけど?」

思わず問題を解く手が止まる。どんなハッピーサプライズだ。一石二鳥。

「本当?助かる。」
「僕の教えた参考書、ちゃんとやってるみたいだからね。」

私が参考書に付けた星を佐藤の指がなぞる。

「これ間違えた時に付けるの。」
「でも、今はあってるね。」
「3回くらい全部解いたから、大体基礎は身に付いたよ。」
「凄いね。」
「でも応用問題をもう少し、数をこなしたいかなあ。」

放課後、本屋に寄って 問題集と海堂の過去問を買う。塾に行けば、先生が受験受験と口癖の様に言っているが 今向き合ってみて、ようやく自分が受験生なのだという事を理解した。そして本屋に行った足で塾に行った。

模擬テストではいつもAとBを行き来している。あと偏差値の壁だけなのだ。


11月、佐藤の実技試験があった月曜日。私は教室で問題集を解きながら、佐藤の登校を待っていた。教室に佐藤が入ると、クラスメート達は主役に集まった。私は席からそわそわと見ていた。

「実技試験は、受かったよ。」

おおお。とみんなが言う。倉本君の感激の声に笑いながら、佐藤は私と目が合う。それからピースを向けた。

その瞬間、佐藤がいつか遠くに行ってしまう そんな予感がした。ほんとに勘だったんだけど、どきっとして体の水分がひいたんだ。



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