10 修学旅行 終



「佐藤!」

私は佐藤の姿を見つけた後、衝動的に走って来た。額にうっすらと汗を浮かべる辺り、大分振り込んだのであろう。

「山田、そろそろ時間?」
「あと少しあるけど…。」

そういう事じゃない。私がここに急いで来たのは、別に班まとめをみんなでやる約束の時間を知らせに来た訳じゃないのに あたかもそんな口ぶりで返事をしてしまう。

見つけた時、佐藤の表情は班を決めたあの日から出来始めたしこりといつも側にあったものだった。今日が終わったら、もう聞けない そんな気がしたのだ。

「オレンジジュース飲みな。」

どう言い出せば良いか分からず、佐藤に汗をかいた缶を差し出す。お礼をされた後、どちらからともなく すぐ近くにあったベンチに座る。

「ふう。」
「…佐藤。」
「ん?」
「修学旅行、嫌いなの?」

私の言葉なのに、自分でさえも納得出来なかった。本当はそんなんじゃない。もっと核心に近づきたいのに、力量不足だ。

「嫌いじゃないよ。」
「でも、班決めた時も休憩の時に2人でみんなを待ってた時も…、」
「?」
「佐藤の表情、こわくて。」
「……。」
「……。」

生ぬるい空気の中、沈黙が訪れる。私は佐藤の顔も見れずにただ自分の足を見ていた。左に感じる熱がいまはこわい。

「何もないよ、ただ考え事してただけ。」

沈黙を破ったのは佐藤で、それに私は返事が出来なかった。オブラートに包むどころかもう何も言わせない、笑顔だったのにそんな雰囲気だった。

「花子、佐藤!」
「ごめん、素振りしてた。」
「……。」

部屋につくと班員達は待ちくたびれていた。私はむくれる友達に缶を差し出す。疑問符を浮かべる友達の横を過ぎて、机のある部屋の壁の側に座った。

私がどんなに佐藤を見ていようと、ひとつひとつ表情を見逃さなかったとしても ただのクラスメートなのだ。その真偽や理由、全てを知る権利も意味もない。つまり聞き出すなんて、自分のエゴなのだろう。

そう割り切ってみるも、佐藤のせいで出来たしこりは消えず また虚しさが包む。

鬱陶しい奴と思われたかもしれない。もう二度と佐藤とは軽口、冗談を言い合えないかもしれない。少しずつ積み上げた僅かな関係だったかもしれないものが消えるかもしれない。僅かでも、私には大きい。

そんな矛盾も佐藤には分からず、私の中でもやもやとしていくのだ。

「花子!話聞きなさい!」

私は怒られた。


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