52






 火照った身体に触れる冷たい新堂の手は心地よく、想は目を閉じる。同じ1日なのに、今日は疲れた。
 想は待ち望んだ新堂の存在に安心して微睡み始めた。
 
「頑張りすぎるなよ」
『れんにいわれたくない』

 唇が触れそうな距離だが、新堂には想が何と言ったか分からない。それでも想の視線から感じ取ったものを微かに笑い、唇を重ねた。

「舌、出せ」

 低く囁かれた想は迷わず微かに開いた口から舌を伸ばした。
 新堂がそれを舐め、絡めるように舌が蠢く。舌先でなぞるように舐めると、想はビクッと腰を揺らした。
 想の呼吸が乱れ、新堂のシャツを握る手に力がこもる。自分の上にいる新堂の腰に、両足を絡めた。

『れん ほしい』

 ぐぐっと足に力を込めて身体を密着させると、互いの熱が主張しているのを感じた。
 想が新堂の下でシャツを脱ぎ、新堂のスラックスのベルトへ手を伸ばす。
 それを見て、新堂は優しく目を細めると想のスウェットと下着を共に下げた。
 新堂は想の首筋を唇で愛撫しながら、完全に衣類を脱がせた。腰を撫で、胸の先端を指先で撫でる。想がびくっと身体を強張らせ、甘い吐息が漏れるのを感じた。

「好きだよ」

 短いひと言に、想は頷いて新堂の首を抱いた。髪を撫で、『好きだ』と唇が形を追う。
 新堂は想のペニスをゆっくりと撫で、先走りが溢れる先端を指先で押した。小さな刺激にも反応を示す身体を楽しみながら、ベッドサイドのテーブルからワセリンを取り、指へたっぷりと纏わせた。
 想の滑らかな肌を滑り、指先が熟れて誘うアナルへ触れる。想は足を開いて期待に目をつむり、腕は新堂にしがみついた。
 滑りを帯びて、中指は簡単に侵入を許された。きゅっと指を甘く食む内部がくぽっと音を立てた。
 ハァ、ハァ……と想の呼吸はすぐに快感に染まって、揺れる腰の艶かしさに新堂は口端を上げた。

「中指だけじゃ足りねぇって、中が欲しがってるな」
『やだっ』

 新堂に耳元で状況を囁かれ、事実に想は顔を赤くした。

「ほら、もう一本やるよ」

 ぬちゅっ……くぽっくぽっ……と増やした指が抜き差しされ、想は音にならない声を上げた。腰から這い上がる快感が、止められない。

「っ……!!っ、ッ……!!」

 指だけで、この有り様。
 想は新堂のペニスが自分に入る瞬間を思い出し、ぎゅっ……とアナルが締まるのを感じた。先走りというには濃いものがペニスの先端を濡らす。
 想はしがみついていた腕を離し、新堂の顔を見つめた。唇が、『いれて』とゆっくり形取る。
 すると新堂の指がもう一本増やされ、前立腺を圧迫するように内部の指たちが想を昂らせた。
 想は喉をそらせ、腰を浮かせた。軽い絶頂にも似た感覚に、息が止まる。トロトロとペニスから精液が滴り落ちた。
 ふ、と想から力が抜けると、内部の指がゆっくりと出て行く。寂しくなったアナルはひくひくと震えて誘っている。
 想は震える手で尻を開くと足を広げて切なげな眼差しを新堂へ向けた。

「あんまり煽るなよ……」

 新堂は想の腰を掴み、目蓋にそっと唇を触れさせた。
 想が微かに息を吸ったとき、ぐっと熱い雄の塊がアナルを押し広げて奥まで突き込まれた。想の性感帯を知り尽くした新堂の挿入に、想は達した。ガクガクと抑えきれない腰の震えを新堂の冷たい手が優しく包む。

「ッ……すげぇ、俺までイッちまいそうだ」

 ぎゅううっとアナルが新堂を求めて収縮する。奥へ誘うように揺れる腰に、新堂は息を詰めた。
 想は震える息遣いで新堂の名前を呼びながら、口付けを求めるように彼の頬に手を触れた。
 とろんと蕩けた瞳が揺れ、口を大きく開けて舌を差し出す想の淫靡さは普段の幼さを塗り潰していた。

「……想」

 新堂は強請られるがまま、舌を絡めるように唇を合わせた。声も、息も、全て呑み込む勢いで。
 息を継ぎながら、角度を変えて繰り返される口付けと共に、打ち込まれる腰の強さに、想は『もっとして』と積極的に舌を絡めた。
 それを察した新堂の腰使いが激しくなる。パンッ、パンッと勢い良く、深く打ち込まれるペニスに翻弄される想の息が新堂の耳元を熱くする。
 ずるる……と抜けそうな程ゆっくりと引かれた腰を追うように、想は必死に腰を揺らす。叫ぶように息が喉を通った。

「っ『きもちぃい』……!『すき れん』……『ぬかないで』……ッーーー!」

 静かな寝室に肌を打つ音と、グジュグジュにされたアナルが貪欲にペニスをしゃぶる音と互いの熱い息遣いが響く。
 髪を撫でられ、額に触れた新堂の唇を感じて蕩けた表情の想は微かに目を細めた。何もない自分に向けられる熱い新堂の視線にじわりと瞳が濡れた。
 ちゅっ……と離れた唇が震える。

『どうして おれの みかたなの』

 音にはならないが、想は言ってみて涙が溢れた。
 新堂は自分が薄汚い殺意を打ち明けても、咎めず、隣に立ってナイフを持つ手を支えてくれる。
 弱音を吐いても、いつでも少し前に立ち、明るい場所へ行けない自分の手を握っていてくれる。
 疑問に思っても、確かな存在。想は何度も新堂の名前を呼んだ。声にならない悔しさは、新堂の声で薄らぐ。

「想。がんばれ……側にいるからな」

 新堂の言葉に想は頷き、涙に濡れた顔で笑った。想は離すまいと両足を新堂の腰へ絡める。
 お互いに愛しい存在の身体を抱き、甘い快感に浸った。









 島津のバイクを降りた想がふらつくと、島津は笑った。ムッとした想が振り返って島津を睨む。

「酒、弱ぇーなぁ。初出勤なのに笑える」
『うるさい』
「はいはい。なんか優越感だわ。お迎えは連絡入れろよ」

 想は半ば無視してアルシエロの扉を開けた。二日酔いだった。今朝はもっとひどかったが、新堂の用意した朝食替わりのドリンクで少しは緩和されたものの、未だに頭痛が酷い。
 今まで酒をろくに飲んだこともなかった為、初めての体験に飲み過ぎを後悔していた。それでも島津の言う通り初出勤。想はキッと顔に力を入れて店内カウンターの扉を開けて店の奥へ向かった。
 三咲に言われていたとおりに扉を開けると甘い香りに想の顔が綻ぶ。彼は様々なケーキを作っていた。どれも一つずつのケーキのため、手間もかかりそうだった。

『おはようございます』

 想がステンレスの机を指先で叩くと、チラリと視線を想へ送った三咲がケーキに飾り付けながら指示を送る。

「右の扉が休憩室。更衣室とか無いけど、誰もいないから机にズボンとエプロンあるから着けて。シャツはスーツのそれでいいから」

 頷いて休憩室に入り、言われたとおり手早く着替えを済ませてキッチンへ戻る。ケーキを並べ始めた三咲が部屋の隅にあるモップを指差した。

「店内の掃除よろしく」
『はい』

 想は頭痛と戦いながら腕捲りをしてモップ掃除に勤しんだ。
 身体を動かし始めると次第に頭痛は良くなり、開店前には三咲の美味しいコーヒーも出されたため、体調は良くなっていた。

「お客様に迷惑かけなければ大丈夫。少しずつ慣れていけばいいよ。顔はいいんだから笑顔でね」
『がんばる』

 三咲にサインを作って見せると、彼はにこりと微笑みコーヒー豆を補充し始めた。









 夕方四時を過ぎた頃、三咲からあがっていいと指示される。初めてのことだらけでくたくただった想は、休憩室で大きく息を吐いた。
 初めは声が出ないことに客も自身も戸惑いしか無かったが、三咲のフォローや想の頑張りもあってか客は嫌な顔もせずにケーキとコーヒーを楽しみ帰った。
 女性客の多いアルシエロでは想に興味津々の客も増えるな、と三咲がぼやいていた。
 休憩室にあるロッカーを開けて携帯電話を手に取る。島津に来てもらおうと思ったが、早く終わった事と、人混みに慣れようと思って呼び出しを止める。電車も一駅、数分だ。
 ふと、着信履歴に新堂の名前を見つけてメッセージを送る。

 “今、終わったよ”

 携帯電話を置いてスーツに袖を通す。上がるときに聞いた、ラフな格好で来ても構わないと言う三咲の言葉に、あまり服を持っていない想が帰りに見ていこうか迷っていると、携帯電話が振動を繰り返す。
 新堂だと思いそれを手に取ると、若林だった。メッセージを知らせる表示を開く。

『はーい と』

 “まともな仕事に就いたお祝いを近々しような!”というそれに、返信して休憩室を出る。
 レジを閉めていた三咲が顔を上げ、ふわっと微笑んだ。

「想くん女性客に人気だね。チヤホヤされても調子に乗らない男なんて初めて見たよ」
『え』
「ふふ、お疲れさま。疲れただろ?コーヒーどう?……外の彼は想君のお迎えかな」
『あ』

 想は頭を少し下げて、迷惑かけてすみません……と示した。
 三咲はくすっと笑って手を振った。
 島津は呼んでいないはず。想が店の外を見ると携帯電話を弄るガタイの良いスーツ姿が見える。
 若林だった。









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