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 な

 それからというもの、夏休みのほとんどをバイトか理玖と過ごした智也は、内田から連絡のない携帯電話をいじることをやめた。
 理玖は智也から連絡をしなくても、明日は?明後日は?と別れ際に訊ねられるので簡単に約束ができた。
 友達というものはこんなに気持ちが楽なんて、いっそ内田と別れてしまえば楽だろうかと考えるようになっていた。
 ひとつの恋が一生続くなんて、そんなのドラマだと智也は思う。
 自分と内田はすでに何も考えなくても楽しくて幸せな関係には戻らないんだと分かり始めた。それならば別れると一言、告げればいい。内田から連絡が無いのは、智也から切り出すのを待っているのではないかと思いを巡らす。

「智也先輩、何考え事してるんです?せっかく俺のミラクルプレイが…」
「あぁ…ごめん。夏休みも終わるなぁってさ。お前サガミ高校だから宿題的なものとか多そうだけど大丈夫なの?」

 心配いりません!と胸を張る理玖を笑って、智也は自分の課題を引っ張り出す。
 今日は智也の家でエアコンの中ゲームをしてまったりゴロゴロしていた。
 智也の高校は少し遠く、なかなか友達と遊べなかったが、こんな風に過ごすのはやっぱりいいなと思える。理玖と仲良くなれてよかったと智也は感じていた。
 智也には偏差値も低い高校だが、理玖は県内トップの高校だ。それでも嫌味もなく、すごく優しくて付き合いやすい。
 理玖が恋人なら……と一瞬考えて、智也は慌てて甘い考えに蓋をした。
 気を取り直すように課題を開くと同時に携帯電話が後ろのポケットで震えた。びっくりして智也が着信相手を見ると『せんぱい』と表示されている。迷わず通話ボタンを押してしまった自分が不思議だった。

「…も、もしもし…」

 ふと、理玖を見ると微笑まれる。きっと相手が誰か分かっている。テレビの音を下げて、再びゲームに取りかかった理玖に智也は胸がきゅっとなった。

「え?あ、家だけど…まじ?…うん、わかった…でも、友達いるから。…は?友達だってば!なんでキレんの?そっちだろ、俺知ってるし、ちょ、…」

 一方的に切られた通話に怒りが溢れる。 
 今から会えるか聞かれ、友達が来てると伝えると浮気を疑われた。いつも祖父母がいる為、会えばすぐにセックスと言う流れが決まっている内田は智也の家に来たことはない。つまり自宅にいて浮気なんて出来ないと分かっているのに、疑われてキレられた。
 いつも内田は浮気しているくせに!と無性に腹が立ち智也は携帯電話を握りしめる。
 そしてふと思う。
 セックスしたら浮気なのか。キスしたら浮気なのか。デートしたら浮気なのか。
 理玖は自分に告白してきた。智也は断ったが、今も好きなのだろうか。だったら、自分に好意を寄せている相手とこんなに親しくしていたら浮気になるかもしれない。
 智也は怒りより、罪悪感に覆われた。

「…江崎、ごめん…帰ってくんね?」

 弱々しい声になってしまったが、智也は自分の思考回路に迷っていてそんなことも気にならなかった。
 理玖は立ち上がると俯いている智也の肩を掴んだ。びっくりして視線を上げた智也に理玖の顔が重なる。
 触れるだけのキスだった。
 智也は理玖の身体を押しのけて立ち上がると、睨みつけた。視界が滲むが、止められない。帰れよ…となんとか声を絞り出した。
 理玖は何か言いたそうだったが、智也に背中を押されて家を出て行く。

「明日、バイト一緒に行きましょ。迎えに来ます」

 振り返った理玖は真剣な顔で言ったが、智也は返事もせずにドアを締めた。





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