理玖は両親の離婚後、父親に育てられている。
 とても子煩悩な父だったが、短期間で様々な支店を巡り、店舗の改善点などを見て指導する大手居酒屋チェーンの指導担当をしていた。
 各地方担当も居るが、理玖の父は本当に日本全国、いつも忙しく飛び回っていた。
 中学生にもなると、留守番も身の回りのことも安心して任せられると、独りで家に残るようになっていて、転校が嫌いだった理玖は、ここがやっと落ち着ける場所となったのだ。

「どうぞ」
「おじゃまします」

 四階の部屋につき、智也を招いた理玖が狭いキッチンに立って冷蔵庫を開ける。
 挽き肉とホールトマトでスパゲティでも作ろうと材料を出した。智也はそんな理玖の後ろ姿を優しく見つめる。

「りーく。はっぴばすでー」

 ダイニングテーブルにプレゼントの入った紙袋を置いた。中身は財布だった。
 ありがとうございます。と理玖が振り向くと、机に突っ伏した智也が視界に止まる。

「智也先輩?疲れちゃった?」
「眠くなっちゃったし。だっこして」

 欠伸をする智也に呆れながらも理玖は言われるがまま智也を抱き上げる。5センチほど理玖が大きいが、智也を運ぶのはひと仕事だ。肩を貸すならまだしも、智也も男なりの重さがある。

「っはい、ベッドで少し寝てください。ご飯にしときます」

 理玖が智也を降ろすと安いベッドが鳴った。

「行くなよ。さっきシよって言っただろ」

 離れないように理玖の首にしがみついたまま智也が弱々しく言う。

「お前いつまでしないの。俺、お前をネタにいつまでオナってればいいわけ」

 ぎゅっとしがみつかれた理玖には智也の顔は分からないが、声は震えていた。智也の告白に赤くなっていた理玖が慌ててぎゅうっと力を込めて抱き締める。智也は顔を首もとに埋めたまま理玖の首筋を舐めた。耳の後ろ辺りにキツく吸い付く。跡が残るように。理玖はビクッと反応するが、嫌がりもせずされるがままだ。

「お前、性欲とかねぇの。抱きついたりキスしたりするのに、エッチはなし?中学生だってそんなンいねぇよ」
「その…」
「…やっぱ男同士だから?」

 お前ストレートっぽいもんね、と智也が呟いて抱き寄せていた腕を離す。薄手の毛布を頭まで被って横になったまま理玖に背を向けた。

「うそつき」

 毛布の中で時々聞こえる不自然な音に、理玖は目の前が真っ暗になった。智也が泣いている。『うそつき』という言葉にドキリとする。理玖は泣かせないと約束したのだ。

「ごめん…誕生日おめでと…おやすみ」
「先輩待って、俺こそごめんなさい」

 もういいよ、と優しく返答が来て、理玖は顔を両手で覆った。

「…なんでお前が泣くのバーカ」
「…俺だって先輩でヌいてます」
「はああ?」

 突然のカミングアウトに智也が呆れて毛布から顔を出す。ごしごしと涙を拭って理玖を見るとバッチリ目が合う。毛布の端を握り、少し潤んで困ったように智也を見つめる目は頼りなく、耳や尻尾があったら極限まで垂れ下がってしまっていそうな雰囲気は動物のようだった。理玖はベッド脇に膝をついたまま熱い手で智也の手を握る。

「先輩が誘ってくれるのは凄く嬉しいけど、逆に困ります。我慢できなくて乱暴にしそうだし、好きだから痛くしたくないです。男同士はキツいって聞きましたよ」
「どーてーみたいなこと言うなよ」
「童貞です」

 ぶはっと吹き出した智也だが、理玖は大真面目だった。笑われても変わらずしゅんとしたまま智也の傍で俯いている。智也が理玖の頭を乱暴に撫でて毛布から出ると、両耳を引っ張った。驚いている理玖の唇に噛みつく様にキスをする。理玖の舌を舐めてベッドから這いずり降りた智也が床に理玖を押し倒す。

「勃ってンじゃん、我慢とかする?バカ。頭いいくせにアホ!俺よりバカ」

 ちゅ、ちゅ、と首に啄むように唇を当てながらズボン越に理玖のペニスを揉む。顔を上げて理玖を見下ろすと、腕で顔を隠している理玖がいる。智也は理玖のベルトを外してボクサー越しに熱いそこを揉んだ。熱く硬く反応している。

「りく…俺、我慢とか出来ないから。好きだからエッチしたいし!少しくらい痛かろーと理玖が酷いことするなんて考えたこともねぇよ!」
「…手、やめ…」
「やだね。本当に俺のこと好きなら今すぐ顔見せろ!」

 半ば怒鳴るように智也が見下ろしながら言うと、ゆっくり理玖がそれに従う。明らかに熱の籠もった視線が絡み合い、智也が小さく喉を鳴らした。
 いつも純粋に自分の後をついてきて、優しくしてもバカにしても尻尾を振って照れていて、時々男らしく頼りになって、すぐに泣く、そんないつもの理玖とは違う彼の表情に智也は微かに笑った。

「我慢とか…いらなくね?」






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