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◆江崎理玖の誕生日


「お疲れさん!ったく、店長も空気読めねぇよな。一時間もずらして上がらされたらさぁ…」
「お疲れ様です!まぁまぁ。智也先輩の方が遅くまで働けるんだから仕方ないですよ」

 バイト先、スーパーの従業員用自転車置き場で座っていた理玖が立ち上がる。高校生は9時まで。休憩室も出なくてはいけない。それが決まりだ。理玖は今、高校三年で、智也は大学一年目。夏が過ぎて少し肌寒くなり、そろそろ二人が親しくなり始めて一年になろうとしていた。

「今日、ファミレスとか行きますか?」
「いや!お前ンち行きたい。一回ウチ寄って良い?」

 もちろんです、と笑って理玖が自転車に跨がる。二人の家は目と鼻の先なのだ。

「あー、江崎っちゃんまだ居たの?そだそだ、誕生日おめでとう。智也さぁ、あんまり受験生連れ回すなよ。じゃ、おやすみー」
「お疲れさまです。ありがとうございます」

 同じバイトの大学生が自転車置き場にやってきて、一言告げて颯爽と走り去った。

「…………っ空気読めん奴だな!」
「え?」
「誕生日おめでとうって言うの我慢してたのにぃいい!」
「えへへ…ありがとこざいます」

 てれっとした理玖の自転車を蹴り、むすっとしたまま智也はさっさと走らせ始めた。風に揺れる金髪を追うように理玖もペダルに足を乗せた。

「先輩、誕生日、何かくれますか?」
「はぁ?当たり前だろ。誕生日イコール、プレゼントじゃん」
「あー今すぐキスしたいです」
「無理だろバカ」

 へらへらしている様子が声だけで分かった智也は、あえて理玖へ視線はやらずに自転車のスピードを上げた。





 五分程で智也の実家に着き、理玖を置いて家に入った智也が一分で戻ってきた。特に何も変わっていない様子の智也を見て理玖が苦笑いする。

「早っ!寄る意味ありました?」
「お前ンちに泊まるって言ってきた。…あと、コレ!」

 小さな紙袋を掲げてにやりと笑って見せ、再び自転車に跨がった智也は理玖を置いてスイスイと走り出す。理玖はというと、強張った顔のまま数秒の間、智也の姿を見ていた。

「りーく!なにやってんの!」

 愛しい人に呼ばれて反射的に追うように自転車を漕ぎ出した。

「せ、せんぱい…本気で泊まるんですか?」
「いーじゃん!俺ンちには泊まるくせに理玖ンとこはダメなわけ?」
「ダメではないですけどぉ…」

 あーだこーだと言いながらも、家は目と鼻の先。故にもう理玖の住むアパートの駐輪場に着いた。智也が自転車を施錠する隣に理玖も自転車を置く。
 部屋も知っている智也が足早に理玖の家への階段を登っていく後ろを理玖がとぼとぼ追った。
 古いアパートはコンクリートで階段も薄暗く、湿っぽいような感じがしていた。前を行く智也の後ろ姿は目を閉じても思い出せるほど見慣れたもので、コロコロ変わる髪型やシンプルなオシャレを好む彼の大切な靴もいつもと同じ。慣れた階段のはずが地獄の門に通じているように思えて、理玖はごくりと喉を鳴らした。

「理玖?」

 名前を呼ばれて、ハッと顔を上げると智也が三段ほど上で立ち止まり理玖を見下ろしていた。少し眉を下げて唇を開く。

「…ちょっと強引だった?…怒ってんの?」

 申し訳無さそうに智也が理玖を見つめる。怒っているわけではない、と首を横に振ったが、智也は階段を降り始めた。慌てて理玖が腕を掴む。

「ごめんなさい。ちょっとドキドキしちゃって。…泊まるとか言うから…すみません」

 理玖は上手い言い訳も思い浮かばず正直に告げた。少し頬を赤くする理玖が可愛く、智也は理玖と同じ段に降りると目を閉じた。キスしろ、と言う気持ちを込めて少し上を向く。

「せんぱ…」

 何をもたついているのか、なかなかキスしない理玖に焦れた智也が理玖の制服の襟を掴んで引き寄せた。重なる唇は少し冷たく、智也が舌で舐めると遠慮気味に唇が開く。
 階段の冷たいコンクリ壁に理玖を押し付けて少し背伸びをしたまま智也は深くキスを変えていく。

「せん、っぱ…ん、ん…」
「んっりく…」

 襟を掴んでいた手を離して理玖の頬へ移す。温かい頬を、智也の熱い手のひらが包む。さ迷っていた理玖の手が智也の腰に回されるのを感じて智也が片足を理玖の足の間に入れてわざと股間を圧迫するように身体を寄せる。理玖はビクッと大袈裟に驚いたが、すでにそこは完全に勃起していた。
 智也がホッとしてキスの角度を変える。くちゅ、とキスの合間に漏れる水音と甘い息にお互い身体の熱が益々上がっていく。

「理玖、今日はちゃんと最後までシよーぜ」

 唇を僅かに離し、頬を赤くしたまま掠れた声で智也が言うと、そのまま理玖に抱きついた。理玖は返事も出来ぬままなんとか智也を抱き締めて、微かに頷いた。






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