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「なぁ、お前まだ俺のこと好きってこと?」
少し緊急した声で智也が聞くと、短く「はい」と答えた。智也が理玖を見て不安そうな顔をした。
「俺のどこがいい?」
「言葉にしないといけないですか?」
智也が頷くと理玖は難しそうな顔をしてから照れくさそうに智也の手を握った。突然過ぎて智也は驚き、手を振り払うこともできない。
「純粋なところです。チャラそうなのに真面目だし思ってることが顔にでちゃう所も残った氷を食べちゃうところも涎垂れそうな顔で寝てるところも俺の名前呼んでくれる声もそれから…」
次々に出てくる言葉は智也自身も恥ずかしくなる内容で、思わず理玖の口を両手で押さえた。真っ赤になって睨みつけるが、あまりに真剣に見つめてくる理玖に震える唇から出てきたのは自己中心的な強がりだった。
「バカか…勝手に人、見てんなよ」
「好きだから見ます。直接じゃないけど彼氏の行動で泣かされてるところも見ました。キレそうです」
「…別れたし」
「やっぱり…」
理玖は自分が避けられている理由がそれだと、なんとなく分かっていた。どこまでも腹立たしい『元』彼だが、別れたと聞いて怒りも収まる。
「俺の何がダメですか?」
今しかない、と絶対智也を振り向かせる為に理玖は奮起する。
逆に聞き返された智也は瞬きを繰り返した。
「俺は智也先輩を泣かせない。どんなに俺が泣かされる事があっても先輩は泣かせません」
「そんなん分かんないだろ…」
「じゃあ付き合ってから確認してください」
鼻息荒く告白されても、もはや智也は理玖に心靡いているわけだから、後は一歩だけなのだ。その方が智也自身も理玖にとっても良い展開に違いない。智也はこれが甘えた選択のように思えて、それが理玖にバレているようで怖かった。
ばっと立ち上がった智也が人差し指を理玖に向けた。
「俺はこれから受験だ。お前は頭いいだろ?勉強教えてくれ。俺を県内の国立大学に合格させられたら付き合う。俺もガチで頑張るから。本気で!」
ん?後輩相手にそれって変か?と、言ってから考え出した智也を理玖は引き寄せた。逃げられないように頬を掌に包まれて今にも唇が触れそうな距離で宣言し返される。
「任せてください!約束ですよ。一足先に大学に行っても今のこと忘れないで下さいね」
理玖の勢いと自信、微笑みが少し怖くて、なんだか先行き不安になる智也は、もしかしてまずいこと言ったかも…と内心で焦った。だが、ここでお互いに頑張れたら本当の意味でお互いを求め合えるのではないかと、智也は大きく頷いた。
*
ふたりが勉強に力を注ぎ始めて少し経ち、何回か試験を終わらせた。
「ぅう…」
「泣くなってば…ごめん、あんまり頭良くなくて…」
「そんなことな、い、です、智也先輩はすごく頑張ってます…うぐ…」
根詰めて勉強を始めたものの、理玖が涙するほどのレベルだった智也。めきめき成績を伸ばして学校内トップを取るほどに数学と物理は飲み込みよく出来たものの、英語は積み重ねが必要で毎日毎日単語を覚えるのに必死、国語のセンスは皆無で、県内唯一の国立で工学部を目標に設定した。
「お前と同じ大学行けるなんて思ってねーからさ、そんなに泣かれると…ホント申し訳ない」
「でもこの大学の工学部は有名だし先輩のお母さんやお父さんも凄く誉めてたし…」
うん、お前すげーよ!と智也が理玖の頭を撫でる。予想以上に頭の良かった理玖と、智也の頑張りは目を見張るものがあった。あの約束から、一度も「好き」などとは言わなかったが、智也は確実に理玖との先を望むようになってた。彼の言葉は本当で、自分のやる気を引き出して学校でも驚かれるほど成績が上がった。そこそこの私立ならば推薦してもらえるほどだ。
もう直ぐ2人の頑張りが試される日がやってくる。
「もっと撫でてもらいたいけど、時間が惜しいです。今日は過去問やりましょう…時間も計りますよ」
「よーしっ頑張るぞ!」
続く。
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