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「ただいま」

 21時を回った頃に帰宅した新堂がリビングに入ると、キッチンに立つ想が見えた。

「カレーだな」

 コートと上着を掛けてキッチンに入り想と並ぶと、自信満々の顔でカレールウの箱の裏を指で叩いて見せた。作り方があれば出来る、ということか。炊飯器もちゃんと保温になっている。

「今日はジムに行ったんだろ?初めて行った感じはどうだった」

 ズボンのポケットから何かを取り出して新堂に見せる。歯だった。ついこの間入れたばかりの差し歯。

『ごめん』

 頭を下げる想に、新堂はこっそり笑った。
 部屋の前の廊下で島津が土下座してた意味を理解したのだ。少し腫れている左頬に触れてからかうように新堂が言う。

「歯がとれる程はしゃいだのか。仲がいいな」

 想は少し困ったような顔で笑って頷き、お皿にカレーとライスをよそってリビングのローテーブルへ運ぶ。ウーロン茶のペットボトルとグラスを新堂が運んだ。

「どっちが勝った?」

 ラグに直に座った想の隣に新堂が座ってグラスにウーロン茶を注ぎながら聞いた。想がぷいっと横を向いて答えず、カレーを食べ始める。
 島津に負けたに違いない。
 新堂は軽く髪を梳いてカレーに手を着けた。よくある家庭のカレーに安心する。

『うまい』

 想が訊ねるように新堂を見て唇を動かす。頷いて背中をポンと叩いてやれば、想は嬉しそうに笑った。

「転ばせて足で首でも締めてやれ。力負けは動きでカバーするしかない」

 興味がある様子で新堂を見つめる想に涼しげに笑って、新堂が続けた。

「若林みたいな硬くてはデカい怪力に勝つには関節きめたりするしかなかったからな。あいつ程とは言わないが島津もそれと同じ様なもんだろ」

 若林と新堂が組み合っている姿が想像できずに想は考えながらカレーを口へ運ぶ。島津に関節技が決められるか不安だが、やる価値はあると思い頷いて見せた。
 食事を終わらせて食器を洗おうとした新堂を止めた想がバスルームを指差して、洗い物は自分がやる、とスポンジを持った。
 新堂がお礼のキスを耳元にしてバスルームへ行き、シャワーを浴びている間に想は食器を洗っておく。
 声がなくなったことは不便で、自分の弱さに直面した気になり少し想を落ち込ませる。が、それはいい事にも繋がっていた。言葉がない分、想は表情やスキンシップで伝えようと遠慮がなくなり、新堂もまた、どうでもよいことも言葉にしたり、声をかける様になっていた。自覚はなくとも、それはお互いを親密にさせている。
 片付けを終えて大きなソファに凭れて、新堂が出てくるまでテレビを点けていた。殆ど毎晩、寝付くまでくっついていることはとても幸せで好きな時間だったが、ソファの心地よさと昼間の運動のせいか眠気がやってくる。ニュースを読み上げるアナウンサーの子守歌を聞きながら想は微睡んだ。









「…っ…っ?」

 違和感に寝ぼけたまま目を開けると、視界には新堂の頭。想は一気に目が覚めて新堂の髪を軽く引っ張る。まだ水気を含み、いつも軽く上げている雰囲気と違って髪が目元に掛かり少し若く見せた。
 しかし、視線は相変わらずで、密かに燃えるような熱さを奥に持った鋭い目つきで見据えられると身体が固まる。ソファに寄りかかったまま、いつの間にか口に含まれた想のペニスは完全に立ち上がり、イきそうだ。

「っ……っ!」

 イヤだとか、無理だ、の意味を込めて首を振った想だったが、笑われて終わる。

「いつかの仕返しだ」

 腰を捩って逃れようと試みても腰と尻を抑えられて逃げられない所か、余計深く咥えられて身体が震えた。想の息が熱を孕んで辺りに散る。声にならない分、静かな部屋に息遣いと水音を大袈裟に感じさせた。
 想がフェラする事は多々あるが、新堂にさせることに気が進まない想はあまりさせたことがない。
 それが余計に感じるのか、顔から身体から、熱くなった。

「想」

 不意に名前を呼ばれて先走りが面白いほど溢れ、腰が戦慄く。呼吸が浅く、短くなり、ぎゅっと目を瞑った。
 アナルが疼いて新堂を欲しがる。
 想が手を伸ばして欲しがっている場所を解そうとすると、それを許さず手首を掴まれる。そのまましつこく先端を舌で擦られて想は新堂の咥内で達した。
 解放感はあるのにペニスだけでは足りなくて、腹の奥に渦巻く欲を確かに感じる。女も抱いたことがないのに、抱かれ慣れた身体は自分でも制御出来ない。
 もちろん、誰でもいい訳ではないし、欲しいのは新堂だけ。

『いれて』

 期待や渇望を込めて新堂を見つめると、ずり下げられただけだったパンツと下着を脱がされる。頬を染めながらも視線は反らさず、足を広げて新堂の腰に絡めて首へ腕を伸ばす。

「可愛いやつだな」

 目を細めて新堂がローションを纏わせた指をひくひくと震えるアナルヘゆっくり埋めながら、唇へ噛みつくようにキスをした。








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