「あぁ……そんなんだからこんなに可愛い顔してんのに、愛想がない!壁を感じる!ってみんなに言われるんだぞ」
「可愛さなんてハナから無いよ。わかってないな。壁、作ってるんだよ。ヤクザと仲良くなんてできない」
「あーそ……そんな事を言って、新堂の事は大好きなくせに」

 しゅんとしてナムルをつつく若林に想は声を立てて笑う。新堂の名前を出されて、微かに胸の奥が熱くなる自分を誤魔化したかった。彼はいつも優しく、少し強引で、けれど決して想を傷付けない。
 白城会で柴谷会長の右腕として動きながら、様々なアンダーグラウンドな仕事をこなし、表社会でもいくつもの会社を回す。そんな男が忙しい合間に求めるのが自分だと思うと、想は微かな気持ちの高揚を感じていた。
 しかし、想は新堂の事をあまり知らない。会えば甘く激しいセックス。会話という会話は少ない。それもそうだ。『恋人』ではないのだから。
 想は新堂以外男を知らないし、女との経験も無かった。
 ぐちゃぐちゃになった日常の中に、時々落ちてくる水滴……それが想にとっての新堂。想は新堂に惚れているが、彼も極道。多くの女を侍らせてるのかも分からなかった。
 かと言って、暴力で血に濡れた自分に触れてくれるような相手が他にもいるとも考えられない。そう思うと、何の実りもない関係だと分かっているのに、新堂の手を、温もりを求めてしまう。

「想?」

 ふと、考え込んでいた想を若林が呼んだ。
 想は『ごちそうさま』と箸を置いてから手を合わせた。人を惹きつける偽りのない笑顔でウーロン茶のグラスとジョッキを軽くぶつける。

「……ヤクザなんて大嫌いだけど、若林謙太は好き。味方だと思ってて……いいよな?」
「……なぁ、想。……養子に……息子になるか?お前がカタギに戻るなら大学行かせるくらい余裕だぞ?俺が親になってやりたい。姉貴の息子なんだから、俺の家族だ。兄弟みたいなもんだろ?俺はお前のオムツだって替えてたくらいだ」

 ジョッキを軽く上げて残りのビールを飲み干すと、若林の真剣な眼差しが想を見つめる。その瞳に邪な色などなく、純粋に想を思う強い光があった。

「……大学か……なんか、あんまり実感湧かないな……」

 少し俯いて視線を逸らした想の瞳は陰っていた。どこか作ったような笑顔を向けてその話題を曖昧に終わらせた想は、デザートにパフエを注文してメニューを閉じる。
 自分を見ている若林の視線が強くて、見つめ返せない。想はウーロン茶のグラスの水滴を指先で遊びながら弱々しく話だす。

「借金、あと300万くらい……普段、事務の手伝いみたいに会社で働いてる給料もあるから、さっきみたいに値のいい仕事がくればすぐに借金は終わるはず…だけど……」
「……けど?」

 なかなか先を話さない想に若林は急かす訳でもなく、聞き役として促した。

「けど……大学とかは、もう……いいかなって……あ、ども」

 注文していたパフエが運ばれてきてペロリと唇を舐めた想は若林に視線を合わせて悲しげな笑みを向ける。

「5年もこんなことして、たくさん……ヒドいことしてきた。もう俺、……どうしたらいいかわかんない。春も絶対、目は覚めないんだって分かってる。だから好きなもの吐くほど食べて終わりたい。他にしたいことないし。俺の手……、臭いよ。血のにおいがする……洗っても、汚い」

 言ってから黙々とパフエを口に運ぶ想を若林は悲痛な面持ちで見つめた。
 残酷な現実に流されて、若林と同じ世界に突き落とされた想を思い出す。
 まだ17歳で、将来は光に満ちていた。全てを持っていた彼が、全て失ったのは 5年前の冬だった。二度と戻らない大切なものばかりが消えた。









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