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 島津とファストフードを買った想がマンションに帰ると、ロビーの組員も、部屋の前の蔵元も驚いた。ツンとしていた島津と興味ない様子の想が一緒に食事を買って隣を歩いていたからだ。

「……なんか、なんか、なんかあったわけ?」

 蔵元が食事を受け取り、混乱気味に訊ねた、廊下に運び入れたパイプ椅子に座った島津は、何が?とうざそうな様子でハンバーガーにかぶりついた。

「お前、嫌ってたじゃん。なんか仲良くなったの?」
「良くねぇよ!ムカつくし」
「え……そうなの?俺は島津が気に入ったよ」

 静かにドアを閉めた想の去り際の言葉に島津は『タメ語?!』と怒っていたが、実際は想が一つ年上だった。
 島津もなんだかんだと言いながら、思っていたより想を気に入り始めていた。反りもタイプも違うが、正直者同士、なんとなく合いそうだ。
 そんな二人のやりとりに蔵元は困惑しながらも空腹を満たすためにハンバーガーにかぶりついた。







 想は鍵をかけてから携帯電話をチェックすると、若林から『無理するな』というメールが来ていた。返信はしなくてもいいと思い、バスルームに入り、夜のために処理をしつつ、シャワーを浴びることにした。
 シャンプーを軽く泡立てていると、自然に視界にあるのは自分の手。やはり赤色が所々黒みを帯びて残っている感覚がある。そんなはずないのに、そうなのだ。がしがしと頭を洗いながら島津の言葉を思い出す。新堂は部下にも尊敬されていて、彼らは新堂の為に些細な要望にも全力だ。そんな新堂の『大切な人』と言われて想は嬉しかった。
 目を瞑って泡を流して、シャワーと指で前処理を終えてから身体を洗った。泡を流しているとバスルームのドアが少し開いた。

「ただいま。飯どうする?外がいいか?」

 振り返るとドアの隙間から新堂の背中が見える。洗濯乾燥機から衣類を取り出していた。無性に新堂に触れたくなった想は手を伸ばす。

「……来て下さい」

 ワイシャツを引っ張ると振り向いた新堂が小さく微笑んだ。バスルームとの境目に立ちドアを少し大きく開けた新堂が濡れている想の頬に触れる。

「どうした?」

 想が上を向けば唇はすぐそこで、新堂のネクタイを軽く引っ張りキスをした。何度か甘えるように短いキスをして、新堂の唇を舐めると応えるようにキスは深く変わっていく。想が新堂のベルトを抜き取って下に落とすと新堂は自分でネクタイをほどいた。

「……ん、ん……れん、したい」
「積極的だな」
「だめですか?」
「いや、すごくいい。丁度よかった。背中流してくれよ」

 衣服を全て脱いで入ってきた新堂の左上腕に想の目が留まる。サイズの大きな絆創膏だった。
 降り注ぐシャワーを頭から被る新堂の後ろで今日も変わらず優美で厳かな雰囲気の仏神とそれを囲む蓮の刺青を見ながら訊ねた。

「腕、どうしたんですか」

 掠り傷だと言い、髪を洗い始めた背中に抱きついて額を背中に押し付けた。怪我をした新堂を始めて見た想は心臓が痛くなった。大変な時期にも関わらず此処にいる新堂が恐ろしい。
 自分はそこまでする価値のある人間とは思えなかった。

「……やっぱり外で飯にしませんか……」
「なんだ。怪我の心配?いらねーよ」

 微かに笑ってシャワーを被る新堂の背中にくっついたままの想に彼は安心させるように言い聞かせる。

「跡も残らないような傷だ。襲ってきた奴の方が重傷だろう」

 背中。と促されて渋々泡を塗り広げた想はまだ納得した様子ではなかった。そんな想の様子に新堂は振り向いて髪を乱暴に撫で回した。

「心配してくれるのは嬉しい」

 そのまま想を引っ張って壁に押さえつけると唇を合わせた。離れた唇を目で追うと新堂が想を見ていた。真っ直ぐに見つめてくる、何事にも動じないような強い視線に想は安心して首に腕を回してキスをねだった。

「毎日おつかれさま。疲れたら俺の相手はしな……」

 『しなくてもいい』と伝えたかった言葉は、切なくなるほど優しい新堂のキスで消された。









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