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 新堂の作った夕食を美味くいただいた想は、ソファでうたた寝していた新堂に唇を重ねた。
 少し恥ずかしさがあったが、『してもいい』と思えた想は、ふわふわした気持ちで触れるだけのキスをした。
 それだけでよかったのに、うたた寝から起きた新堂はニヤリと笑うと想をソファへ沈めた。
 驚きと恥ずかしさと、少しの期待で頬を染める想を見て、新堂から全てを奪うような口付けが始まった。








「明日も休みか?」

 セックス後の気だるさを引きずりぼーっと新堂の腕の中で呆けていた想は頷いた。想のオフィスは土日休みで、裏の仕事が入らなければそれは原則守られていた。

「いつも何してる?」
「うーん……寝てるかな……それか走るか」

 『つまんねぇな』と笑われて想も頷いた。本当に何もない自分に嫌気が指すほどだと想は目を閉じた。なんとか地に足を着けて歩かないと、何か見つけないと、想はそればかり考えた。

「明日は五十嵐真司を調べます」
「……若林に言われたのか……想、気をつけろ。俺は手が一杯だ」

 頷いた想は新堂の肩に顔を寄せると温もりと安堵から、すぐに眠りに落ちた。
 すぐに聞こえ始めた規則正しい静かな寝息を感じて新堂は優しく頭を撫でた。新堂も若林と同じように想を守りたいと思うが、閉じ込めて安全を作る事は出来ないと感じていた。
 想は自分の身は自分で守るし、銃の訓練も積んでいる。その辺のチンピラでは相手にならないだろう。だからこそ、あまり深く関わらせたくない事もある。やばい方へ、危険な方へと足を踏み入れて欲しくはない。
 若林の出張は予定外で、新堂はどうしたものかと溜め息を吐いた。









「想、行ってくる。朝食ちゃんと食えよ。早めに帰れるようにするから、今夜は夕食一緒な」

 新堂が頬を撫でると想は寝ぼけながらその手にキスをし、手を振った。その仕草に笑って出て行った。

「……んん……」

 気の抜けた声で想が目を開ける。続けてセックスしているからか身体は怠かったが、気持ちは穏やかだった。ひとりでいるよりもはるかに安心していたし、相手が新堂である分、幸せもあった。

「……美味しそう……」

 とろとろとベッドから出た想がリビングへ行くと、焼塩サバとサラダがラップを被り、茶碗とお椀が状せられていた。なんでも出来る新堂に、今夜は苦手なことを聞こうと心に決めて白米と味噌汁をよそい、朝食を食べ始めた。









 食器を片付けてスーツを着た想は部屋を出た。昨日のスタジャンとトライバル頭に挨拶をすると、スタジャンは感じよく返した。

「有沢さん、俺は蔵元、あいつは島津です。基本ここにいるんでよろしくっす」
「お疲れ様です。よろしくお願いします」

 想と蔵元は握手を交わしたが、島津は不機嫌そうに廊下の窓から外を眺めていた。

「島津はシャイな奴なんで、勘弁して下さい」

 笑う蔵元に苦笑いを返して想はマンションを出た。昼は新堂に言われていた買い物をし、夕方から五十嵐真司を調べるために出ようと決めていた。
 元ホストとなれば、ホストクラブやキャバクラの多い場所で探した方がいいと考えていた。昼間でもいいが、夜の方が人に紛れて目立たないし、新堂や若林もてこずる程あちらが警戒している分あまりこちらの動きを知られたくはなかった。
 想は殆ど服を持っていなかった為ファストファッションショップで適当に服を買い、スーパーで野菜と牛乳をカゴに入れる。いつも出来合いのものや、インスタント品ばかり買っていた想は新鮮な感覚で商品棚を見ていた。
 久しぶりの買い物は案外楽しく、時間を大幅に使った想が新堂のマンションに着いたのは夕方だった。
 冷蔵庫に野菜をしまって、カラーシャツに着替える。上にスーツを着ればなんとなく水商売のように見えなくもない、と想はネクタイを緩めにして暗くなり始めた空とは反対に灯りが溢れ始めた街の方へ出かける。二、三時間調べて帰ろうと決めていた。

「有沢、俺も行く」

 部屋を出るとトライバル頭、島津が想を呼び止めた。怪訝な顔で島津を見ると、その視線に気付いたスタジャン、蔵元が一言足した。

「新堂社長が有沢さんを頼むって言ってたんで」
「俺なら大丈夫です。お二人は仕事をして下さい」

 頭を下げてエレベーターに向かう想の数メートル後ろを島津がついて来る。エレベーターは特殊な鍵が無いと新堂の部屋がある階には止まらない。
 それを持たされている島津は、若いのに新堂に信用されているのだと想に感じさせた。
 マンションから出ても、島津は着いてきた。
 端から見たら知り合いとは見えない距離だが、想からするとかなり邪魔だった。
 隠しもしない目つきの悪い視線が背中に突き刺さる。想はイラついて走り出した。
 後から島津も走り出す。
 料金制の駐車場へ入ると、塀を蹴って登ると軽やかに飛び越える想に島津も食いついて離れない。
 何度か建物の角を曲がり、細い路地に入って非常階段を段飛ばしで駆け上がり、古ビルの中を覗くと小さなクラブや飲み屋、メイド喫茶などが入っているようで安心して中に入った。そのまま店には目も止めずにビルを走り抜けた。
 振り返っても島津はいない。
 想は清々して人混みに入った。










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