想はバスタブの縁に浅く腰掛けたまま、人にあまり晒されることなかった場所を新堂に許していた。
 恥ずかしさと興奮と、訳の分からない身体の熱さは、次第に『気持ちいい』という感覚に変わり始める。
 想は必死で、歯を食いしばり変な声が出ないように耐えながら、両手で顔を覆って荒い呼吸を繰り返している。
 新堂は濡れたシャツやスラックス姿のまま、想の足元に片膝を付いて、想のアナルへ侵入させた指を動かしていた。
 時折、膝に口付けると、大袈裟に反応を示す想がどこか可愛らしく、新堂は遊ぶように内股にもキスをした。
 内壁がキュッと締まり、それに反するように中で指を捻ると、想の細い腰がビクッと跳ねた。
 にちゅっ……とローションの滑りを帯びて出て行く新堂の指を、想の内壁は寂しそうに食んだ。

「っ、ん……!」
「痛みは?」
「ふぅ、う……はぁ……ッな、ないです……変な、感じ……」
「痛くないなら、もっと指でいじって欲しいか?気持ちよさそうな顔してる」 
「え……」

 新堂の涼しげな、微かな笑みで見上げられ、想は一瞬言葉に詰まった。だが、すぐに顔を真っ赤にして俯く。
『気持ちよさそうな顔してる』
 新堂の言葉が何度も何度も脳内で響き、恥ずかしくて爆発しそうな気分になった。
 想がギュッと目を閉じていると、新堂の手が想の頬に触れた。

「っ……!?」
「悪い。あんまり可愛い反応するから、ちょっとかまってみたくなった」
「か、かわ……?可愛くはないです、けど……気持ちいい、とは思いました……」
「ふふっ、正直でいいね。もっとしてやろうか?さすがに男のチンコを挿れられるのは抵抗があるだろう」

 違和感に腰をもじもじさせる想を見て、新堂は笑いを堪えるように微かに目を細めて、答えを促すように想を見上げた。
 恥ずかしさに隠れていた大きな目が、新堂を見つめて戸惑うように揺れた。
 想は無意識に、自分の膝に置かれた新堂の手に触れた。
 先程の甘いキスが甦り、この男にもっと触れて欲しい……そんな欲がふつふつと湧き上がる。その感覚に我慢しなければ、という気持ちはすでに踏み潰されていた。
 甘く、優しい目の前の存在を欲している。

「……新堂さんは、イヤじゃ……ないですか……?」

 想は震える声を絞り出した。恥ずかしはすでに無く、心臓がやけに静かに、低く鳴る音を感じるほどに緊張しているだけだった。









 彷徨っていた手が自分の肩に触れたのを見て、新堂は抱き着いて良いと促すように腰を揺すって、想の腰をぐいっと抱き寄せた。
 バスルームの床に座り、対面座位で身を寄せたまま新堂は想の首筋を舐めた。

「ひっ、あぅ……ッ!」

 奥へと押し込まれた熱いペニスを感じて、想は思わず声を上げた。
 反射的に新堂の首へ腕を絡め、抱きつくようにして身体を安定させる。

「ずっと、そうしてていい」

 耳元に流れるウィスパーボイスに、想は戦慄いた。快感を得て硬く主張する自身のペニスから先走りがトロトロと溢れた。
 許可を得た想は、『いいんだ』と嬉しそうに腕に力を込めた。触れる肌と、感じる匂い。優しさに触れて、全て許してくれる。そんな感覚で満たされる。
 きっと、『好き』ってこういう事なのかも。
 想はなんとなくそう思ったが、だからどうなるわけでもない事も分かっていた。
 せめて、今だけ。
 仕方なく『こう』してくれる新堂の優しさを、目一杯感じていたくて、小さな声で何度も彼を呼んだ。

「っ、新堂さ、……気持ち、い……です。……奥、いっぱい……」
「俺も気持ちいいよ」

 何度か頷く想の内部がきゅっ、きゅっと痙攣したように締まり、新堂は甘い息をゆっくりと吐き出した。

「ベッドに行くか?」
「……はい」

 ゆっくりと熱いペニスが抜かれ、想は息を詰めた。
 腰が抜けて、膝も震えていた想を抱えた新堂は、濡れたままも気にせずに寝室へ歩み、そっとベッドへ想を下ろした。
 想は男の自分が抱えられて運ばれるなど、言葉にできないほど照れ臭いと思ったが、新堂があまりにも優しく唇を重ねてきて、どうでもよくなった。

「ん、ん……しんどぉ、さん……」

 想は正常位で足を開かされ、新堂にのし掛かられて、再び繋がった。
 先程と違う角度で内壁を擦られて、想から甘い声が漏れる。
 新堂は想の腰を掴んで、急かさず、想の快感を優先するようにゆっくりと腰を押し込んでは引いた。
 ぬちっ、ぬちっ、という控えめな滑り音が微かに響く。

「想、気持ち良い時はそう言えよ。たくさんしてやりたい」
「ん、……分かんない、です……全部、気持ちぃ……」

 想のペニスは新堂に揺さぶられる度に揺れ、先走りと精液で腹を汚していた。何回達したのか分からない。
 声を我慢しながらも、決して快感から逃げない想が可愛らしく、新堂は少しペースを上げるように腰を突き上げた。
 一層、己の首にしがみつく想の腰を支えて激しく突き上げを続けると、想は抑えきれない声を上げて達した。

「ッ、ぅあッ……う、あぁっ!!!」
「……ほら、顔上げろ」

 震えて、揺れてしまう想の腰を、新堂の手が撫であげる。
 ゆっくりと想は顔を上げた。
 快感に蕩け切った想の瞳が新堂を捉える。
 キスされると察して、想は薄く唇を開けた。キスされるのが堪らなく好きだと分かった。
 身体以上に、奥がふわっとするのに、じくっと熱を帯びるような、不思議なもの。
 そして、少し重たく、胸が痛む。

「ん、……ん、好き……」

 想はぼやけた思考の中、心の声がぽつりと溢れた。
 唇が触れ、呼吸さえ奪うような深い口付けにふたりが夢中になっていると、突然寝室のドアが外れる勢いで開かれた。

「想ッッッ!!!!!」

 若林の地鳴りのような声が寝室に響き渡った。
 飛び上がるほど驚き、思わず腰を上げた想だが、新堂はそれを許さず腰を押さえつけて身体をますます抱き寄せた。
 その格好のまま、のドアを開け放って怒気を滲ませる若林を見上げ、新堂は口元に笑みを作った。

「よお、寝坊助。起きたのか?」
「あ、あの……わかばやし、さん……あ、ありがと……」

 想は新堂から身体を離そうともがくが、それを許さない腕の強さに戸惑う。

「し、新堂さん……は、はなして……」
「どうして?せっかく楽しんでたのに」
「ぅ、ん……わ、若林さんが……見てるから……」
「ああ……」
 
 想は離れられない身体は諦め、恥ずかしさと罪悪感から逃げるように顔を新堂の肩に埋めた。
 この状況は?!と、居た堪れない想は必死に、ぎゅっと新堂を抱きしめることで誤魔化した。
 新堂はそっと想の頸を撫でてた。想の気持ちが理解できたからだ。
 新堂は視線を変え、目を細めて若林を睨んだ。

「取り込み中だ。閉めてくれ」
「おい!!」

 若林はベッド脇に立つと、新堂の襟を掴んだ。
 くっついていた想は驚いて顔を上げ、若林の手を握る。

「ごめんなさい!!俺がお願いしたの!!」
「知るか!!想は黙ってろ!!まだ未成年の想に手を出しやがって!!!新堂!」
「はぁ……想が成人してても、お前は同じ行動したろ」
「だぁあ!今すぐ離れろ!!」

 新堂は呆れ気味に息を吐き出し、想の頬に口付けると名残惜しそうに身体を離した。
 想は未だ体内に存在していた新堂を感じて、慌てて唇を噛み締める。
 バサッと頭からシーツをかけられて、想はポツンとベッドの上に取り残された。

「ぶわっ……、わ、若林さん……」
「何も言うな」

 若林に凄まれ、想は眉をひそめて唇を引き結んだ。
 だが、若林の拳が新堂に向けて空を切ったとき、想は慌ててベッドから飛び降りて若林に抱き着いた。

「ッ、けんちゃん!!」

 ゴッ!!と鈍い音がして、新堂はふらつくように一歩下がった。
 新堂は覚悟して頬に食らった重たい拳に、視界がチカチカと光り、一度瞼を閉じる。すぐに開くと、反撃するために握った拳が、想によって止められた。
 






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