ーーああ、可愛い。
 腕の中の金髪を撫でる。サラッとした髪は、本当にブリーチしてる?と疑いたくなる手触りだ。
 にこにこ。
 『アオイくん!』
 笑顔で名前を呼ばれるだけで癒される。
 懐いてくれて嬉しい。
 弁護士になるために勉強ばかりしてきた。
 ホストなんて、無理。世界が違う。
 そう思っていたアオイだが、弁護士先輩の紹介で『HAWK』に入店して、学校では学べないことをたくさん知った。
 2年も働くと距離感や相手の事を理解でき始めて、スタッフとも客とも楽しく働けるようになった。
 途中で嫌にならなかったのは、ヒワのおかげだったと思う。
 アオイは、そっと手を伸ばしてヒワの金髪を撫でた。

『ヒワはいつもにこにこしてて、悩みなんてなさそうで、いいね』

 褒めているつもりで言っても、ヒワはムスッとして顔を歪めたり、頬を膨らませたり、唇を尖らせてみたり、さまざまな表情で答えた。

『悩みくらいありますー!』

 そしてふたりで笑い合う。
 他の双子のイスカや、スタッフもいればみんなが笑う。
 そんな日常。
 それなのに……

『俺の悩みは、どうしたらアオイくんが気持ち良くなってくれるか……なんだよね。ね、教えてよ』

 そう言って、ヒワはアオイの下腹部へ手を這わせた。
 確実に意図を持って、衣類越しにペニス付近をヒワの指が行き来する。
 遠慮なくアオイを見上げるように見つめるヒワ眼差しから、視線が逸らせない。
 口元が笑い、目が細まる。
 ああ、可愛い笑顔。
 アオイはこんな可愛い存在が、まさか自分の股間をまさぐっている状況に目を伏せた。
 好きは好き。でも恋愛とは違う。女の子が好きで生きてきたし、オカズもそう。男に興奮するのだろうか。いや、無理。
 自問自答を心の中で繰り返していたが、快感を引き出すように揉まれ、押されて勃起し始めるのを感じて、アオイはヒワの頬に触れた。
 お互いに顔を近づけ、唇がーーーー……

ーーーピピピッ、ピピピッ、ピピピッ、ーーー

「……あ……?」

 耳を突き刺す連続した電子音。
 アオイは現実に引き戻され、今まで夢の中だったことを察した。
 そして、寝ぼけていた頭が冴え始めると、毛布を被ってぎゅっと目を閉じた。
 ごめん!ヒワ!
 心の中で土下座の謝罪を叫んだ。勝手に、いやらしく自分に迫るヒワの夢を見たことに、アオイは激しく罪悪感を覚えてひとり身悶えた。









 意識とは恐ろしいものだ。
 ヒワは開店前のバックでグラスを磨きながら大きくため息をこぼした。
 アオイを振り向かせるために、遠回しに好きだと聞かせた。
 あの日、たまたまアオイが双子の会話を立ち聞きしたのではない。ヒワがアオイの出勤時間を計算して『聞かせた』のだ。
 ヒワが、アオイを好きだということを。
 だが、あれから三日。明らかに避けられてしまっていた。
 
「大きいため息。面倒なことしないで、告白すればよかったのに」
「イスカは分かってないなぁ……。アオイくんは男を恋愛対象と見てないじゃん?いきなり告白したら困るでしょ」
「でも、ヒワは好かれてるから」
「そういう好きじゃないもん。……アオイくんは『可愛いキャラクター』が好きなだけで、俺を好きなわけじゃない」

 俯いて眉を寄せたヒワに、イスカはそれ以上は言わずにフォークを磨くことに集中するように視線を下げた。
 兄弟そろって恋愛対象は同性。今まで誰とも付き合った事はないし、思いを伝えたこともない。
 ふたりだけの秘密だったが、『好き』という気持ちは勝手に膨らみ、心も身体もおかしくする。
 あふれて、こぼれて、収まりが効かない。
 溢れ出すと、『好き』で楽しかった日々が『辛い』になって、苦しくなる。
 ヒワは今、そんな状態だった。
 イスカが黙ると、ヒワはその背中を撫でた。

「イスカは?告白するの?」

 お互いに、『好き』が心にある。

「告白しないよ。俺は好かれてない」

 それでも、その『好き』が必ずしも混ざり合うとは限らない。
 イスカは、せめて双子の兄弟の恋が実るようにと視線を合わせて微笑んだ。

「あと少しでアオイさんは辞めちゃうよ。アクセルんだ方がいい」

 ヒワは、イスカがアオイは司法修習生として県外へ出てしまうことを言っていると察して、小さく頷いた。
 
「アオイさん、ヒワの気持ちを聞いて意識してる。だから避けてると思う。嫌なら徹底的に避けるはずたろ?」
「……うん。挨拶してくれたり……お菓子くれたりする」

 今までと変わらずに接しようとしているアオイを感じるが、視線を合わせてもらえない。
 ふたりきりにはなろうとしない。
 そんな避け方。

「ヒワ。もう、アオイさんはヒワのことばっか考えてると思うよ。ヒワが弱気になってどうするんだよ」
「だって、怖い……アオイくんの気持ちなんて分からないじゃん。そこらのゆるキャラと俺、同類かもじゃん」

 ヒワは手に持っていたグラスを置いて、『う〜』と唸った。
 人当たりが良く、なんでもそつ無くこなすヒワのグダグタした様子にイスカは思わず笑った。
 
「面白すぎ。そんなに不安そうなのに、目がギラギラしてる」
「はあ?」
「目の前の獲物に飛び掛かるだけなのに、足踏みして、うろうろして……おかしいって」
「わ、笑うなよ」
「両思いになるために、なんでもするって俺に言っただろ?ボディータッチ増やして、たくさんちょっかい出して、好きにさせてやるって」
「……言ったけど」
 
 イスカは唇を尖らせ、視線を彷徨わせるヒワの背中を撫でた。

「後には引けないよ」
「分かってるってば!」

 挑発するような言い方のイスカに、ヒワは鼓舞するように大声で答えた。







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