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 触れるだけの可愛いキス。
 それだけでいいと、それがいいと、思えるほどの威力。

「……秋日、部屋に入れてくれて嬉しい。騒いで無駄だったら、ここまでなんだって、考えてた……」

 仁介は那須川の額にゴツっと自分の額を合わせて目を閉じた。微かに頬が染まり、閉じた瞼に並ぶ、まつ毛の隙間から涙が滲んでいた。
 言葉も、いつものような軽い、乱暴な言い方ではない。
 仁介の弱々しい姿に、那須川はそっと短い髪に触れた。そのまま優しく撫でる。

「……僕……たぶん、またこんな事になっても……じんの事守れない……と、思う」

 小さく呟く那須川の瞳が潤み、顔が歪む。普段の無気力で面倒くさそうな表情が無い。
 彼の震える声に仁介は笑った。

「バーカ!……俺のために、大金や大事な商売道具も渡そうとしてくれただろ。……俺も、俺の大事な、守りたいもの見つけた」
 
 満面の笑みで、『勝手に好きになって、ガキでごめんな』と仁介は謝った。

「僕……?……理解、不能……」
「俺にクソ親から自立しろって言ったヤクザが、『大事なもん守れ』って。俺の目標!」
「……聞きたく、ない……ワード。『ヤクザ』……」

 それでも不安そうな那須川がネガティブな思考に入るのを察して、仁介は携帯電話を見せた。
 写真に映る二村と五藤の無様な姿に、那須川は目を大きくした。
 そう顔を見て仁介は声を立てて笑った。

「あいつらのスマホにも送っといたから、しばらく大人しくしてんじゃねーの」
「すご……」
「やられっぱなしじゃねぇんだよ」

 仁介はニヤリと笑い、那須川の襟を掴んで部屋の奥へずかずかと進んだ。バスルームの扉を開けて指を指す。

「汚ねぇから風呂!秋日、一緒に」
「は!?やだ!!人前で服脱ぐなんて絶対無理!!」
「お!秋日、言葉に詰まってねえじゃん!さ、行こうぜ」
「っ……い、や……です!」

 えぇー!と眉を寄せた仁介のお願いを、必死に断る那須川の泣き言がバスルームに木霊した。

 





 一緒にお風呂は嫌がった那須川だったが、シャツとパンツ姿で仁介の髪を洗ってやった。
 仁介はその夜、ずっと機嫌が良く、こんなに喜ぶならば、洗ってあげるくらいこれからもしてもいいかも……と微かに目元が緩んだ。
 仁介の部屋のベッドで一緒に寝転び、くだらない今日の出来事を話した。そのうち仁介は眠ってしまった。疲れていたのは目に見えた。
 少しずつ、壊れた感情のスイッチが戻るような感覚に、那須川はすやすやと隣で眠る男を見つめた。

「不思議な……生き物……だね。じんは……ペットセラピーって、こんな感じ……かな」

 薄いつり上がった眉。整った鼻筋と薄い唇。
 一見、凶暴そうに見えて、中身は純粋。
 どれだけ汚されようと、自分を失わず、目標に突き進む強い心を持った生き物。

「……犬、だね」

 那須川は他人との距離の近さを嫌ったが、この犬のような男はなぜだろう、懐に入ってくるのが上手い。嫌悪を抱かせない。
 仁介の隣で目を閉じた。温かい体温を感じ、身体を寄せる。
 ちゅ、っと額に唇を当ててみれば、仁介は『うぅん……』と眉を寄せながら那須川の胸元に顔を埋めるように抱き着いた。
 驚いた那須川だったが、すやすやと規則正しい寝息が聞こえ、ふわりとした気持ちで眠りに落ちた。
 








 ふと、那須川は身体の違和感に寝ぼけてながらも目を覚ました。
 股ぐらが温かいような冷たいような。

「……う……?」

 まさか、漏らした?と手を伸ばした那須川だが、触り心地の良い坊主頭を感じて意識は覚醒した。

「??!!!」
「あ、おひふぁ?」

 『おきた?』と、仁介は口にモノを含んだまま首を傾げた。
 寝起きにフェラチオと言うシュチュエーションより、那須川が驚いたのは自分のペニスが完全に勃起していたことだ。

「ちゅ……ん、……しゅーかぁ、立派なムスコさん元気ですねえ」

 仁介は根本から先端までレロレロと舌を這い回し、軽く吸い付くと唇を離した。その表情はいたずらをして楽しむ子供のように笑っていて、それなのに目の奥はいつものいやらしいモードの色がうかがえる。
 那須川が言葉に詰まっていると、仁介は再びペニスを咥えた。
 あえて音を立てながら、ジュッ、ジュル、ジュボッ、と深く加えて口を動かした。
 仁介の視線はずっと那須川を見ていて、那須川自身目を逸らせずにただ、固まっていた。
 だが、すぐにペニスから硬さが失われて、精液が先端から垂れてくる。

「ひ、や、やめ……!ぬ、ぬるったい……!」
「お?あれ……元気なくなった。あー、やっぱダメか」
「も、もう……!じんすけ!」

 那須川は微かに頬を赤くしたまま慌てて下着とスウェットパンツを引き上げようとする。
 だが、仁介はそれを許さず楽しげに目を細めた。

「勃ってなくたっていいよ。舐めさせろ」

 は?!という声は音にならず、那須川は再び自分の股に顔を埋める仁介に釘付けで固まった。






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